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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「チャンプ」

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 (原題:The Champ )79年作品。映画を“泣けるか、泣けないか”という基準で評価する世の多くの善男善女の皆さんにとっては、本作は最上級の称賛を受けるべきシャシンだろう。しかしながら、結果的にファンの記憶に残る映画になったのかというと、断言は出来ない。瞬間風速的に観客の涙腺を直撃しようとも、長期的に見ればモノを言うのは映画の質とヴォルテージだ。同じくボクシングを題材にした映画として、この作品の3年前に作られた「ロッキー」と比べてみれば、それは明白だと思う。

 かつてボクシングの世界チャンピオンとして名声を得たビリーも、今は落ちぶれて酒とバクチに溺れる日々を送っている。とっくの昔に妻には逃げられたが、一緒に住む8歳の息子TJだけは、父を“チャンプ”と呼んで慕うのだった。ある日、ビリーは別れた妻のアニーと再会する。彼女はファッションデザイナーとして成功しており、そんなアニーを見たビリーは惨めな気分になるのだった。ビリーはTJにアニーと暮らすように言うのだが、TJは父親の元を離れない。ビリーは息子のため、37歳という年齢ながらもう一度リングに上がることを決意し、厳しいトレーニングを開始する。



 前半には親子の情愛、後半のボクシングの激闘、そしてラストの愁嘆場と、メインの素材を切り分けて提示する手際の良い作劇が印象的。そもそも、監督がフランコ・ゼフィレッリだ。どう考えても駄作にはなりそうもない。何よりTJに扮する子役のリッキー・シュローダーが手が付けられないほどの名演で、彼を見ているだけで入場料のモトは取れる。

 だが、観終わってみればこれは“よく出来たメロドラマ”の域を出ないのだ。対して「ロッキー」はどうだったかといえば、低予算で無名のキャストが中心ながら、創意工夫により目を見張る求心力を達成していた。そして斜に構えたようなアメリカン・ニューシネマの終焉を告げるような、明るくポジティヴな空気が充満していた。また、舞台になったフィラデルフィアの下町情緒を丹念に描写し、主人公が恵まれない人々のヒーローになる構図をも作り上げている。

 つまり「ロッキー」には映画の中身だけではなく、製作の過程自体に骨太なストーリーが組み込まれていたのだ。そのあたりが「チャンプ」には欠けている。だいたい、この映画は1931年に公開された同名映画のリメイクだ。製作当時の今日性を描出できるようなネタではなかったということだろう。

 ビリー役のジョン・ヴォイト、アニーに扮するフェイ・ダナウェイ、共に好演。フレッド・コーネカンプのカメラによる映像は深みがあり、デイヴ・グルーシンの音楽も満点だ。とはいえ、ウェルメイドなドラマという括りから一歩も出ない本作の立ち位置は、依然そのままである。

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