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Channel: 元・副会長のCinema Days
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韓国映画のオスカー獲得と日本映画の現状。

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 去る2月10日(日本時間)に発表された第92回米アカデミー賞で、韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が4冠を達成した。私は国際長編映画賞と脚本賞は獲得すると思っていたが、まさか作品賞にまで輝くとは予想外だった。それも外国語映画では初の栄誉。オスカーの歴史を変えたとも言える快挙だ。対して日本映画は(得意のアニメーションをはじめ)ノミネートもされていなかった。

 そしてカズ・ヒロ(旧名:辻一弘)がメーキャップ・ヘアスタイリング賞を受賞したことも話題になった。彼は2018年に同賞を得ているが、それから国籍を日本からアメリカに移しており、米国人としては初のオスカー獲得になる。授賞式後の会見で日本について問われると“文化が嫌になってしまった。日本で夢をかなえるのが難しい”と辛口のコメントを残している。

 以上2つの事実は、一面では日本映画の退潮を示している。つまり、かつて高水準を誇っていた邦画は、今や韓国映画にも後れを取り、人材も育てられなくなったということだ。カズ・ヒロの言う“文化”とは、もちろん日本の伝統文化のことではなく、映画を取り巻く環境すなわち企業・業界文化のことである。優秀な者がそれに見合った待遇を与えられず、業界内の数々のしがらみや忖度に縛られ、満足するような結果を得られないことを批判しているのだろう。

 日本にも優れた映画人は少なからず存在する。だが、彼らの作る映画はたいてい注目されない。シネコンのスクリーンで目立っているのは、アイドルやテレビタレントを起用した愚にも付かない“壁ドン映画”や、年寄り向けの腑抜けたドラマ、そして粗製濫造気味のアニメばかりだ。ちなみに、2020年3月に発表される第43回日本アカデミー賞では、「翔んで埼玉」みたいなお手軽ムービーが最多ノミネートだという。まさに暗澹たる状況だ。

 韓国映画は国家が支援しているから有利だという話があるが、それだけではここまで隆盛にはならない(むしろ、国の援助が足枷になる場合だってあるだろう)。積極的な映画製作をバックアップしているのは、映画業界の“攻め”の姿勢と、それに応える観客の意識の高さではないかと思う。彼の国では“面白いものを作れば客を呼べる”という、至極当たり前の構図が成立していると想像する。ならば面白い映画を作るにはどうすれば良いか・・・・そこから“逆算”して製作の段取りを整える姿勢が韓国映画界にはあるのだろう。

 もちろん、何をもって“面白い”かは議論が分かれるところだ。観客の好みは千差万別。“面白さ”の定義は明確ではない。しかし、多様的な“面白さ”を狙ってフレキシブルに人材や資本を投入することは可能だ。韓国ではそれが出来ていると思う(まあ、内実はよく知らないので断言はしないが ^^;)

 対して日本では、どう考えても観客が喜びそうもないシャシンが罷り通っている・・・・と思ったら、それらは一部の“固定客”を掴んで採算が取れているのだという。だが、限られた層ばかりにベクトルが向いていると、いずれは縮小均衡に陥って消滅してしまう。反対に、多様性を備えた意欲的な企画が次々と通れば、多くの観客は興味を持ってくれる。

 日本映画が低空飛行を続ける原因はいろいろある。ブロック・ブッキング制の放置やテレビ局等の不用意な介入、文化庁が行なう助成金の運用体制の不備、そして何より長引く経済マクロの低迷で消費者の財布のひもは固くなる一方だ。しかしながら、手を拱いているばかりでは進展しない。とりあえずは映画ファン自身が問題意識を持つことが大事だろう。何より“もっと面白い日本映画を観たい”と心の底から願い続けたいものだ。

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