(原題:THE TWO POPES )見事な出来栄えで、感服した。新旧ローマ教皇の対話劇という、キリスト教には縁のない多くの観客にとって興趣に乏しい題材と思えるが、実際に接してみるとドラマの深みと厚みに圧倒される。しかも、適度なユーモアが挿入され、作劇のテンポも良く、幅広い層にアピールするだけの仕掛けも持ち合わせている。まさに映画のプロの仕事だ。
2012年。バチカンでは教皇宛の告発文書がリークされる事件(バチリークス・スキャンダル)や長年疑惑が持たれていたマネーロンダリング、さらには頻発するカトリック教会の性的虐待事件などの責任を取り、教皇ベネディクト16世は退位する決心を固めていた。彼が後任候補に選んだのは、アルゼンチンのホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿である。だが、ホルヘはカトリック教会の方針に不満を抱いており、枢機卿の座までも降りようとしていた。ベネディクト16世はホルヘをバチカンに呼び寄せ、説得を試みる。719年ぶりに起こった、ローマ教皇の生前退任と禅譲の経緯を描く。
現時点で現教皇はもちろん前教皇も健在で、2人の実際の映像が挿入される箇所もある。だから余計な忖度めいたものが介入するのかと思ったが、それは杞憂に終わった。主人公の2人のプロフィール、特にホルヘの激動の半生を描くパートは実にドラマティックであり、映画的興趣にあふれている。
76年にアルゼンチンの軍事クーデター時に、ホルヘは結果的に同胞を裏切る行為に走ってしまう。軍政が終了した後は長らく“左遷”扱いになり、やっと国内のカトリック勢力の中央に復帰したのも束の間、理不尽なバッシングにさらされる。彼は恋人との仲を諦めてまで聖職に身を投じ、真に世のため人のためと思ってやったことが裏目に出たという苦悩。バチカンからのオファーを最初は断ったのも、当然だと思わせる。
対するベネディクト16世にしても、ドイツ出身であることで時にファシスト扱いされ、度重なる教会の不祥事に有効な手段を講じることができなかったディレンマがある。そんな脛に傷を持つ2人が対峙し、教会のあるべき姿とは何なのか、教皇はどういう役割を果たすべきか、とことん話し合って合意に至る。そのプロセスが平易に綴られると共に、宗教の果たす役割という深いテーマまでもが浮き彫りになる。
とはいえ、本作には晦渋な展開は皆無だ。2人はピアノ演奏やピザの昼食を共に楽しみ、ポジティヴな姿勢を崩さない。そして、絶対に事態は好転すると信じている。この2人が教皇であったことが幸運と思えるほどだ。
フェルナンド・メイレレスの演出は格調が高く、しかも柔軟な語り口を伴っている。ホルヘ役のジョナサン・プライス、ベネディクト16世に扮するアンソニー・ホプキンス、共に名演。そして若い頃のホルヘを演じたフアン・ミヌヒンのパフォーマンスも素晴らしい。なお、この作品もNetflix扱い。今後はこの配信サービスの重要性がますますピックアップされるだろうが、劇場公開のプロセスも踏んで欲しいと思っているのは私だけではないだろう。