先日観た市井昌秀監督の「台風家族」と似た設定の映画だが、出来映えは圧倒的に本作の方が良い。これは題材をオフビートに捉えて向こう受けを狙っただけのシャシンと、多少変則的なシチュエーションながら正攻法に徹した作品との差である。つまりは作者の意識の高さの違いだ。特にこの映画の監督である常盤司郎はこれが長編デビュー作であり、今後を期待させる。
闘病中であった東日登志が亡くなり、東京でカメラマンとして働いている息子の麟太郎と長女の美也子は福岡県の実家に帰ってくる。通夜が執り行われる中、母のアキコは仕出し屋に注文していた弁当を勝手にキャンセルしていた。代わりにアキコの作った料理は、目玉焼きだった。呆気にとられる一同だが、それは日登志が昔子供達に初めて振る舞った料理でもあった。日登志は遺言状に通夜に出す料理を指定していたのだ。
父親ゆかりの料理が次々と出される中、麟太郎と美也子の胸に家族の思い出が去来する。実はアキコは後妻であり、麟太郎と美也子の“兄”にあたるシュンという連れ子がいたのだが、長らく音信不通だ。折しも台風がこの地を通過し、居合わせた者達が容易に外に出られない状況の中、濃密な人間ドラマが展開する。
料理をトリガーとして登場人物達の過去が明らかになってゆく点は妙味だが、それだけでは物足りない。ヘタするとただの“思いつき”に終わる。そこで本作は今までの軌跡と現時点での彼らの立ち位置までを長いスパンで総括するという、厚みのある作劇を用意した。
麟太郎は仕事が上手くいかず、美也子は育児と家事に忙殺されて周りを見渡す余裕が無い。それが今回封印されていたエピソードが明らかになることにより、父親との関係性を改めて確認し、自らの人生にプラスとしてフィードバックしてゆく、その過程には無理がなく、観る側の感性にスッと入るのだ。「台風家族」のような悪ふざけは皆無で、どのモチーフも自然体で捉えられている。
常盤の演出はこれが第一作とは思えぬ落ち着きを見せ、ドラマの破綻は見られない。染谷将太に戸田恵梨香、窪塚洋介らのパフォーマンスは万全。日登志に扮した永瀬正敏の存在感が光り、斉藤由貴が久しぶりにマトモな演技をしているのにも感心した(笑)。撮影担当の山本英夫と山下宏明の音楽は言うこと無し。また、出てくる料理の描写も見逃せない。
闘病中であった東日登志が亡くなり、東京でカメラマンとして働いている息子の麟太郎と長女の美也子は福岡県の実家に帰ってくる。通夜が執り行われる中、母のアキコは仕出し屋に注文していた弁当を勝手にキャンセルしていた。代わりにアキコの作った料理は、目玉焼きだった。呆気にとられる一同だが、それは日登志が昔子供達に初めて振る舞った料理でもあった。日登志は遺言状に通夜に出す料理を指定していたのだ。
父親ゆかりの料理が次々と出される中、麟太郎と美也子の胸に家族の思い出が去来する。実はアキコは後妻であり、麟太郎と美也子の“兄”にあたるシュンという連れ子がいたのだが、長らく音信不通だ。折しも台風がこの地を通過し、居合わせた者達が容易に外に出られない状況の中、濃密な人間ドラマが展開する。
料理をトリガーとして登場人物達の過去が明らかになってゆく点は妙味だが、それだけでは物足りない。ヘタするとただの“思いつき”に終わる。そこで本作は今までの軌跡と現時点での彼らの立ち位置までを長いスパンで総括するという、厚みのある作劇を用意した。
麟太郎は仕事が上手くいかず、美也子は育児と家事に忙殺されて周りを見渡す余裕が無い。それが今回封印されていたエピソードが明らかになることにより、父親との関係性を改めて確認し、自らの人生にプラスとしてフィードバックしてゆく、その過程には無理がなく、観る側の感性にスッと入るのだ。「台風家族」のような悪ふざけは皆無で、どのモチーフも自然体で捉えられている。
常盤の演出はこれが第一作とは思えぬ落ち着きを見せ、ドラマの破綻は見られない。染谷将太に戸田恵梨香、窪塚洋介らのパフォーマンスは万全。日登志に扮した永瀬正敏の存在感が光り、斉藤由貴が久しぶりにマトモな演技をしているのにも感心した(笑)。撮影担当の山本英夫と山下宏明の音楽は言うこと無し。また、出てくる料理の描写も見逃せない。