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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「メランコリック」

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 脚本には随分と無理がある。しかし、それを補って余りある展開の面白さ、キャストの大健闘、そして作者の意識の高さにすっかり感心してしまった。本年度の邦画を代表する痛快作だ。聞けば第31回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門で監督賞を獲得しているとのことだが、それも十分うなずける。

 主人公の鍋岡和彦は有名大学を卒業していながら、一度もマトモに就職せず、実家暮らしでアルバイトを転々としていた。ある晩、彼が風呂に入る前に母親が浴槽の栓を抜いてしまい、やむなく近所の“松の湯”に出掛ける。そこで偶然高校時代の同級生である百合と再会。それが切っ掛けで、和彦は銭湯で働くことになる。だが、その銭湯は店主が閉店後に、殺人と死体処理に貸し出していた場所だった。



 うっかりその現場を目撃した和彦は、その“作業”を毎夜手伝わされるハメになる。素人が荒仕事に荷担していることを知った殺し屋の元締めであるヤクザの田中は、口封じのために和彦を消す算段を始める。ピンチに陥った和彦は、懇意にしている同僚の松本(彼もまた殺し屋)と共に、危機突破を図る。

 わずか2,3人で死体を短時間で“完全処理”できるはずがなく、警察が勘付かないのもおかしい。田中はある程度大きな組織の幹部のはずだが、仲間が顔を出すことは無い。そもそも“松の湯”の店長の東と田中との関係は“借金がある”ということしか示されていないが、どう見ても東はカタギの者とは思えない。そのあたりの説明もスルーされている。

 しかし、キャラクターの練り上げ方と意表を突くストーリー、そして全編に漂うポジティヴな空気が観る者を捉えて離さない。鍋岡家のホノボノとした雰囲気と不器用だが憎めない和彦の言動。百合は決して美人ではないが、素晴らしくチャーミング。意外に“好青年”だったりする松本と、不気味で油断出来ない田中。そして田中の情婦アンジェラは自然体だ。

 和彦と松本が“軍事訓練”する場面の可笑しさや、人を食ったような終盤の処理など、楽しませてくれるモチーフも満載。これがデビュー作になる田中征爾の演出は達者で、適度なサスペンスと良い案配のホラーテイスト、さらにはバディムービーとしてのユーモアや、青春映画らしい爽やかさをも表現し、飽きさせることは無い。

 プロデューサーを兼ねる主演の皆川暢二をはじめ、磯崎義知や吉田芽吹、羽田真、矢田政伸などの出演者は演劇畑の者達であり全然馴染みはないが、皆名前を覚えたくなるほど上質なパフォーマンスを見せる。それから、銭湯の雰囲気が良く出ていたのも評価したい。

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