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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「人間失格 太宰治と3人の女たち」

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 要するに、中身の無い映画だ。いや、そもそも監督が蜷川実花である。中身の詰まった映画を期待する方がおかしい。本作を観た理由は、太宰治と最後に心中する相手に扮した二階堂ふみのパフォーマンスを堪能するためであり、その“目的”はクリアすることは出来た(笑)。それ以外は、本当にどうでもいい。

 流行作家の太宰治は、妻子がありながらヨソの女と幾度も懇ろになり、自殺未遂まで繰り返す始末だった。昭和22年、歌人の太田静子と深い仲になり、彼女の日記をモチーフにして「斜陽」を書き上げ、大ヒットさせる。同じ頃。太宰は美容師の山崎富栄と知り合い、彼女を愛人兼秘書として扱う。そして昭和23年、彼は富栄と玉川上水で入水する。



 このような題材を扱うにあたって、取り敢えずテーマとして取り上げるべきは作家の私生活と文学とのディープな関係性なのだが、本作にはそんなものは無い。「斜陽」の執筆に関しても、付き合っていた女にネタをもらっただけで、何ら作家性とリンクする部分は見つからない。それどころか、この映画での太宰治は物書きとしての矜持や奥深さを持ち合わせていないように見える。単なる“だらしない男”でしかない。

 妻の美知子は本質的に“耐える女”としての役割しか与えられておらず、静子の描写は薄っぺらい。美和子を演じているのが宮沢りえで静子が沢尻エリカなので、両者の役者としての実力不足も関係しているのだが、それを演出でカバーしようとする様子も無い。主役の小栗旬に至っては、小説家にさえ見えない有様だ。

 そんな中にあって、やっぱり二階堂の存在感は群を抜いている。一見純情だが、実はしたたかに自らの破滅願望を成就する女を見事に表現している。どんなに監督がヘボでも、しっかりと自身のアピールを怠らない姿勢には、いつもながら感心する。

 蜷川の仕事ぶりは相変わらずで、拙いドラマを表面的な“様式美”によって糊塗するだけ。この人は、本質的に映画監督に向いていないと思う。他に成田凌や千葉雄大、瀬戸康史、高良健吾、藤原竜也と悪くない面子を揃えていながら大して効果を上げていないのには脱力するばかりだ。それにしても、本作では「人間失格」が太宰の遺作のように描かれていたが、最後の小説は「グッド・バイ」である。そのあたりに言及していないのも、違和感を拭えない。

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