(英題:ORDINARY PEOPLE )マ・ドンソク演じる強面でマッチョな主人公が体育教師として赴任し、街で頻発する事件を解決するという話だ。当然のことながら、腕っ節を活かして悪い奴らをバッタバッタとなぎ倒す痛快巨編だと誰でも思うし、日本版ポスターでもそういう雰囲気が前面に押し出されている。しかし、主人公が暴れ回るのはほんの数回なのだ。これは“看板に偽りあり”である(苦笑)。
ボクシングの東洋チャンピオンであったギチョルは、トラブルによって業界を追われ、知り合いの紹介で山間の静かな町で女子校の体育教師になる。勝手が分からない職場で戸惑うことばかりだが、やがて彼は失踪したクラスメイトの行方を捜すユジンと知り合う。学校側は単なる家出として取り合わず、警察に訴えても捜査願さえ受理されない。それどころか、住民全員がこの事件を無視しているような雰囲気だ。やがてユジンが何者かに襲われ、裏に大きな勢力が存在することを察知したギチョルは、不明の生徒の行方を探そうとする。
原題は“市井の人々”であり、主人公の活劇を窺わせるものではない。これはアクション映画ではなく、ミステリーなのだろう。だが、その御膳立てはあまり上等ではない。この土地は選挙期間中で、政治にまつわる利権が関係しているのか思っていたらその通りであり、行方不明の女生徒が置かれた状況も驚くものではない。政治屋とヤクザが結託して街を牛耳っているという図式や、住民が無関心を決め込んでいるというモチーフもありがちだ。
展開も意外性は感じられない。イム・ジンスンの演出はまあ水準には達しているが、脚本の出来が良くないので、損をしていると思う。ならばとことんダメな映画なのかというと、そうでもない。これはミステリーものである以上に、アイドル映画なのだろう(笑)。ユジンをに扮するキム・セロンは、かつて有名子役だったが、いつの間にか成長してスクリーン映えする若手女優になっている。ルックス面の訴求力は高く、今後の活躍も期待されよう。そして、舞台になる韓国の地方都市は、日本の昭和時代の田舎町と同じ佇まいであり、見ていてホッとする。