脚本が練り上げられていない。設定自体に無理があるばかりか、展開には説得力を欠いている。白石和彌監督作品は出来不出来の差が大きいが(ハッキリ言って、不出来であるケースが目立つ ^^;)、今回は気勢が上がらないままに終わったようだ。ただし、元人気アイドルが汚れ役をやったとことは、話題になるとは思う。
印刷会社に勤める木野本郁男は、競輪場通いに明け暮れる無為な日々を送っていた。そんな生活を一新させるべく、彼は恋人の亜弓の故郷である石巻に居を移す。亜弓の実家には、末期がんで余命幾ばくもないが、それでも漁師として働く父親の勝美がいた。ぶっきらぼうな勝美は、郁男に亜弓との仲を許す気配はない。それでも亜弓と勝美、そして亜弓の娘である美波と一緒に暮らすことにした郁男は、近所の小野寺の口利きで地元の印刷屋に勤務することになった。
しかし同僚に誘われて競輪のノミ屋に足を運んだことを切っ掛けに、再びギャンブルにのめり込む。そんな中、亜弓と喧嘩した美波が家を飛び出してしまう。郁男は亜弓と共に美波を探し回るが、些細な口論から郁男と別行動を取ることになった亜弓が、何者かに殺害される。
まず、亜弓がどうして郁男に惚れたのか分からない。周囲と打ち解けそうも無い雰囲気の美波が、郁男に懐いている理由も不明だ。とにかく郁男は救いようのないダメ男で、こんな人間と仲良くなるには余程の事情があるはずだが、映画は何も説明しない。
そもそも、郁男がギャンブルに溺れた背景が描かれていないし、彼が嬉々として賭け事に走る様子も無い。つまり、主人公のギャンブル依存症は単なる“御題目”に過ぎず、キャラクターとしての中身が無いのだ。
実を言えば、殺人事件の犯人は消去法で考えるとすぐに察しは付く。しかし、その動機に関しては最後まで明示も暗示もされない。ノミ屋の元締めであるヤクザの親分は勝美と親密な仲のようだが、内実は不明。とにかく、登場人物達のプロフィールが置き去りにされたまま、突発的な出来事ぱかりが積み重なっていくだけのシャシンなのだ。
主演の香取慎吾は頑張ってはいるようだが、表情も身のこなしもセリフ回しも全てが一本調子で、到底納得出来る演技ではない。西田尚美や吉澤健、リリー・フランキー、若手の恒松祐里など、脇のキャストは決して悪くは無いが、ドラマ自体が要領を得ないため空回りしている印象を受ける。映像面では見るべきものは無く、安川午朗の音楽は今回は不発。ラストに映し出される海底に沈む震災の爪痕も、何やら取って付けたようで観ていて居心地が悪い。