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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「新聞記者」

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 これはちょっと酷すぎる。どこから突っ込んで良いのか分からないほど、すべてにおいて完全に“間違っている”映画だ。そして、現時点で邦画において時事ネタを扱う際の困難性を改めて痛感した。生半可な知識と浅い考察では、社会派作品を手掛けるのは無理である。

 社会部記者として働く吉岡エリカのもとに、大学新設計画に関する極秘情報が匿名のファクスで届く。さっそく彼女は取材を開始。一方、外務省から内閣情報調査室(内調)に出向している若手官僚の杉原は、職場の露骨な現政権寄りの姿勢に戸惑っていた。そんな中、彼は昔の上司である神崎と久々に会うが、その数日後に神崎は自ら命を絶ってしまう。どうやら神崎は政府の機密を掴んでいたらしい。やがて吉岡は杉原に接触する。

 学校新設計画というのは多分に“モリカケ問題”を意識したモチーフだと思うのだが、あの事案の本質は経済問題である。だからマスコミが真っ先に切り込んでいくべき相手は、当然のことながら主管の文科省、そして財務省、さらには構造改革特区を主導した経済財政諮問会議であるべきだ。内調や外務省とは、直接には関係が無い。

 ところが、作り手達にとって、この問題はキナ臭い外交事案やインテリジェントが暗躍する“国際的陰謀”であるらしいのだ。ラストに明かされる“衝撃の事実”とやらには、心底呆れかえった。斯様なウソ臭い大仰なネタは、今どきジェームズ・ボンド映画でも扱わない。作者達のメンタリティは、冷戦時代あるいは55年体制時で停止しているのではないか。左傾の者達が“こういうあくどい企みが存在するに違いない!”と頭の中だけで合点し、リアリティ不在のまま突っ走ったシャシンと言わざるを得ない。

 ストーリー及びプロットの組み立ては、いちいち指摘するのが面倒になるほど雑である。平板な演出は、過去の作品で才気を見せた藤井道人の仕事とも思えない。

 そして致命的なのはキャスティングであろう。吉岡は日本人の父と韓国人の母の間に生まれたという設定で、演じているのは韓国女優のシム・ウンギョンなのだが、その必然性が微塵も無い。彼女のたどたどしい日本語ばかりが耳に付き、愉快ならざる気分になる(日本の女優にオファーしたが“政治的な色”が付くことを敬遠して断られたという話もあるが、そんなのは言い訳にもならない)。杉原を演じる松坂桃李も終始陰気で精彩が無く、杉原の妻に扮する本田翼に至っては、堂々たる“場違いなラブコメ演技”を披露してくれる(苦笑)。

 確かに現政権の遣り口は決して褒められたものではなく、批判の対象になることは当然である。しかし、本作のようないい加減な姿勢では、屁の突っ張りにもならないのだ。原作は左傾の論客として知られる現役新聞記者だが、こういう現実逃避のイデオロギー的観点でしか物事を捉えられない者達が“社会派作品”の企画を提示している状態では、永遠にハリウッドには追いつけないだろう。現政権にモノ申したいのならば、いくらでも“現実的な”切り口は存在する。それを考察しないのは、作者の怠慢だ。

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