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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「鹿鳴館」

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 86年作品。市川崑監督作としては殊更優れたものでないが、伯爵夫人を演じる浅丘ルリ子の突出したパフォーマンス、および高いレベルの美術と衣装デザインにより、存在感のある映画に仕上がっている。また、製作デスクに原作者の三島由紀夫の遺児である平岡威一郎が加わっているのも感慨深い。

 明治19年11月、天長節の舞踏会で鹿鳴館は賑わっていた。外務卿の影山伯爵は政界では指折りの実力者で、政府に鹿鳴館の建設費用を出させたのも彼の功績である。妻の朝子は新橋の芸者あがりだが、華やかな外見と人当りの良さで社交界の人気者になっていた。

 朝子は侯爵令嬢の節子から恋愛の相談を受ける。その相手の名は清原久雄というのだが、それを聞いた朝子はショックを受ける。実は朝子と久雄との間には重大な“秘密”があったのだ。しかも、久雄の父である清原永之輔の指揮で自由党の残党がテロを計画しているという。久雄を邸に呼んだ朝子は、20年もの間誰にも言えなかったその“秘密”を打ち明ける。三島の同名戯曲の映画化だ。

 やっぱり、舞台劇の映画化は難しい。特に三島のレトリックの多い台詞回しは、そのままでは堅苦しい。もちろん映画向けに手直しされているのだろう(脚色は市川と日高真也)、それでも違和感は拭えない。加えて、各キャストには精彩が無い。影山伯爵役の菅原文太をはじめ、石坂浩二、中井貴一、井川比佐志、三橋達也、神山繁、浜村純など男優陣は駒を揃えているが、揃いも揃って無気力演技に終始。節子に扮した沢口靖子も、この頃はまだ大根だった(笑)。

 しかしながら、そんな中にあって浅丘ルリ子の奮闘は光る。彼女の挑発的な佇まいが、いかにも“訳あり”のヒロイン像に完全にマッチしている。正直言って、彼女が出ていなかったら途中で席を立っていたところだ。ワダエミによる衣装デザインは素晴らしい。鹿鳴館は遠景こそ安っぽいが、中身は十分それらしく仕上げられている。小林節雄による撮影、山本純ノ介と谷川賢作が担当した音楽もイイ線行っている。

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