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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ロングウェイ・ホーム」

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 (原題:A LONG WAY HOME )81年作品。身を切られるような現実の惨さ、それに翻弄される主人公達、そしてその先に見える一筋の光明をも示し、実に訴求力の高い人間ドラマに仕上がっている(実話を題材にしている)。元々はテレビ映画として製作され、全米で45%という視聴率を記録したらしいが、テレビ番組にありがちな安易なアプローチは見当たらず、しっかりとした作りだ。

 少年ドナルドの父親は無職で、母親は娼婦だった。彼と幼い弟と妹の3人には、住む家も無い。ある雨の日に、彼らは親から置き去りにされる。警察に保護されて児童擁護センターに送られるが、3人は別々の施設に預けられる。月日は流れ、成長したドナルドは弟と妹を探すために奔走する。



 まず、子供達が置かれているシビアな境遇には驚かされる。まさに目を覆わんばかりだ。昨今は世間を騒がせる虐待事件が後を絶たないが、状況は今も昔も変わっていないのだ。

 そして、ドナルド達と里親との微妙な関係性が描かれているあたりも上手い。育ててくれたことには感謝はしているのだが、やっぱり実の親ではない。里親の側としても、距離感を掴むのは難しいだろう。結果としてドナルドが成人するまで互いに折り合いを付けられない。ここは決して単なる美談にはしないという、作者の意図が感じられる。それだけに、後半に両者が“和解”するくだりは感慨深い。

 ドナルドが弟と妹を探し出す過程は山あり谷ありで、適度なサスペンスも折り込み、飽きさせない。彼らの本当の両親のようにロクでもない人間は少なくないが、マトモな者はそれよりもずっと多く、真摯に接すれば必ず助けてくれるという構図の提示は申し分ない。印象に残るのは、自分の身分をわきまえた範囲で最大限ドナルドをサポートしてくれる施設の女性カウンセラーだ。“渡る世間に鬼はなし”とはよく言ったものである。

 ロバート・マーコウィッツの演出は丁寧で、登場人物の内面を巧みに掬い上げる。それに応えるティモシー・ハットンやブレンダ・ヴァッカロ、ポール・レジナ、ロザンナ・アークエットといったキャストも申し分の無い仕事ぶりだ。感動的なクライマックスは観る者の涙を誘うだろう。また、児童福祉の問題に関して考える上でも、大いに参考になる映画である。

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