(原題:THE GAUNTLET)77年作品。クリント・イーストウッドの監督作は個人的に概ね好みではないが、気に入った映画もわずかにあり、本作はその中の一本だ。もっとも脚本はイーストウッドではないので(担当したのはマイケル・バトラーとデニス・シュラック)、そのせいかもしれない。
アリゾナ州フェニックス市警に勤めるショックリー巡査長は、中年に達する年齢ながら風采が上がらず、未だ独り者で酒に浸る毎日だ。ある時、彼は上司のブレイクロック警部補から、検事側の証人をラスベガスから連れてくるという業務命令を受ける。早速現地に赴いたショックリーは、その証人が若い売春婦であったことに驚くが、その女マリーはフェニックスまで彼と同行することを拒む。行けば殺されると言うのだ。
彼女を信用出来ないまま、それでもマリーを連れて戻ろうとするショックリーだったが、乗ろうとした車は爆破され、正体不明の連中から付け回される。さらにマリーの家に身を寄せた彼を警官隊が包囲し、一斉射撃を加える。命からがら難を逃れたショックリーは、いつの間にか自分が凶悪事件の犯人として指名手配されており、マリーも犯罪組織から狙われていることを知る。罠に嵌められた彼だが、それでも敵の首魁を倒すため決死の覚悟でフェニックスに向かう。
ヒッチコック映画でお馴染みの“追われながら事件を解決する話”を下敷きに、ロードムービーとラブストーリーを載せるという、鉄板の設定が提示されている。主人公たちには次々と災難が降りかかり、一つのハードルを乗り越えると、間髪入れず別のトラブルが手を変え品を変えて襲ってくる。その展開は実にスムーズで無理がない。
アクション場面の段取りも上手く、バイクに乗るショックリーとマリーをヘリコプターが追いかけるシークエンスは絶妙だし、圧巻はショックリーの運転するバスを待ち受ける凄まじい数の銃弾だ。どう考えても主人公たちが生き残れる状況ではないのだが(笑)、勢いで突っ走っている。イーストウッドの演出は単純明快でストレート。彼がこの路線を極めて、ドン・シーゲル監督の後継者みたいな位置を占めることになれば万々歳だったと今では思うのだが、それからは作家性を前面に打ち出して“巨匠”になってしまったのには、何とも複雑に気分になる。
本作における主役としてのイーストウッドは実に良い味を出しているが、それより印象的だったのがマリーに扮したソンドラ・ロックである。蓮っ葉でありながら純情、粗野だが知的という役柄を見事に表現している。残念ながら彼女はイーストウッドよりも先に世を去ってしまったが(2018年没)、この一作だけで十分に映画ファンの記憶に残る仕事をしたと言えよう。