今月(2月)に福岡市中央区天神にある福岡シンフォニーホールで開催された、藤岡幸夫指揮の日本フィルハーモニー交響楽団の公演に行ってみた。曲目はドヴォルザークのスラブ舞曲第1番および交響曲第9番「新世界より」、そしてチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番である。なお、私がこのオーケストラを生で聴くのは5年ぶりだ。
この公演で一番印象に残ったのが、チャイコフスキーの演目でソリストを務めた萩原麻未だ。彼女は86年生まれの、まだ“若手”と言っていい年代のピアニストである。パリ国立高等音楽を首席で卒業し、2010年のジュネーヴ国際音楽コンクールで金賞を取るなどのキャリアはあるが、恥ずかしながら私は今回彼女の名前および演奏を初めて知った。
とにかく、彼女が奏でるサウンドは流麗だ。テクニックは高度に練り上げられているが、それを強調するかのようなケレンや硬さは無い。音色は明るく、隅々まで磨き上げられたように滑らか。エモーショナルではあるが、決して情感におぼれない。難曲もストレスなく進み、鑑賞後の気分は格別である。
そして圧巻は、アンコールに応えてのドビュッシーの「月の光」だ。この有名曲は実演で耳にすることも多いが、かくも美しいパフォーマンスに接したことは無かった。タッチは柔らかいが、作品の魅力を立体的に展開している。さすが名匠ジャック・ルヴィエに師事しただけのことはあると思った。
聞けばオール・ドビュッシーのプログラムによるリサイタルも開いたことがあるらしく、もしも近場で開催されたならば足を運びたい。また彼女の容貌はチャーミングで、スタイルも良い。野郎の聴衆に対するアピール度も高いだろう(笑)。リリースしているディスクは少ないが、こちらも積極的なレコーディングを期待したい。