ひょっとすると、金子修介監督の代表作の一つになるかもしれない。「ことでん」の愛称でも知られる香川県の高松琴平電気鉄道の路線開通100周年を記念して作られた映画。オール香川ロケで、香川県知事や高松市長も顔を出すという、地方発自治体全面協力の作品だが、思いがけない“作家性”が横溢しており、すこぶる興味深い。
高松市美術館が長年企画していた地元出身の芸術家・安藤行人の回顧展が、やっと実現の運びとなった。学芸員の涼香は数十年ぶりに故郷の土を踏む安藤に新作を依頼するが、創作意欲が減退した彼からは色好い返事がもらえない。落胆する涼香に、安藤は古い懐中時計を見せる。これは若き日に高松を後にする彼が、琴平鉄道の車中で見知らぬ女性から譲り受けたものらしい。
彼の今回の帰郷はその女性を見つけるという目的があり、消息が分かれば新たな作品のインスピレーションになるかもしれないという。そんな安藤のために、涼香は人探しを始める。
前半はいかにも“ご当地映画”らしい微温的な展開に終始する。例えて言うならば、NHK教育テレビでの番組内での“寸劇”(?)だ。しかし、この毒にも薬にもならないやりとりを我慢して見続けていると、中盤以降の思い切った“仕掛け”に驚くことになる。
くだんの女性と安藤との関係やがて明らかになるのだが、その真相はかなりドラマティックだ。しかも、それと同時に時制が交錯したトリッキィなシークエンスの組み立て方が目立ってくる。極めつけは安藤の“新作”が大々的にフィーチャーされる終盤近くの作劇だろう。鉄道会社が主催して作られた映画にふさわしく、クライマックスは電車が重要なモチーフとなる。
過去・現在・未来を列車の運行に見立て、主要登場人物だけではなく小さな役しか与えられていなかったキャラクター達の“想い”までも乗せて線路を走らせるというアイデアは秀逸だ。もっとも、その段取りの中には若干気恥ずかしいネタも混じってはいるが(笑)、思いがけない電車の“終着駅”と、そこで待つ人々の感動的な情景を見せつけられると、許してしまいたくなる。
涼香に扮する木南晴夏は狂言回し的な役どころなので、正直言って出番が多い割にはさほど印象に残らない(ルックスも地味だし ^^;)。それよりも、安藤役のミッキー・カーチスの飄々とした食えない芸術家ぶりと、彼の若い頃に親交のあった女性を演じた中村ゆりの美しさには感服した。岩田さゆりや井上順などの脇の面子も悪くない。金子監督とたびたびコンビを組む釘宮慎治のカメラによる、明るく澄んだ映像のとらえ方も見逃せないところだ。
過去にはいろいろな苦難があり、今でも屈託が多く、これからもどんな逆境に置かれるか分からない。しかし、それでも我々は出来ることをやっていくしかないのではないか・・・・というポジティヴな視点が心地良い作品だ。“ご当地映画”も侮れない。