(原題:CROSSFIRE )1947年製作のアメリカ映画だが、日本公開は86年である。エリア・カザン監督の「紳士協定」と同時期に作られ、共に反ユダヤ主義をテーマとする内容であったが、本作も人種差別の何たるかを鮮明に暴き出し、強いインパクトを残す。この時期の米映画を代表する力作だ。
第2次大戦が終結し、兵士達が戦地から復員してきた時期に、ある町でユダヤ人の復員兵のジョセフ・サミュエルが殺されるという事件が起きる。担当警部のフィンレイは、事件当時の夜にサミュエルが3人の復員兵とホテルのバーで一緒だったことを突き止める。フィンレイはそのうちの一人であるモンゴメリーと彼の上官であるキーリー軍曹に事情を聞くが、モンゴメリーと一緒だったミッチェルが泥酔して前後不覚になったという証言を得る。
しかもミッチェルはサミュエルと意気投合して彼のアパートまで行ったという。そこでミッチェルが一番怪しいということになったが、納得出来ないキーリー軍曹はフィンレイ警部と協力して事件の再調査に乗り出す。やがて意外な真相が浮かび上がってくるのだった。
犯行の動機は、人種的偏見による逆恨みである。復員兵がまともな職に就けないのは、ユダヤ人が悪い・・・・という短絡的思考により、犯人は凶行に及んだ。劇中でも説明されるが、このケースはたまたま犠牲者がユダヤ人だったが、マイノリティならば誰でも犯人の憎悪の対象になり得る。
ささくれ立った空気が横溢する大戦直後の雰囲気を、監督エドワード・ドミトリクはシャープに再現する。絶妙のキャラクター設定と強固なプロットで、上映時間を1時間25分にまとめた手腕も素晴らしい。
沈着冷静なフィンレイ警部に扮したロバート・ヤングのパフォーマンスは万全だが、キーリー役のロバート・ミッチャムの戦争に疲れ果てた表情も印象に残る。ロバート・ライアンやグロリア・グラハム、ポール・ケリーといった他のキャストも良い味を出している。J・ロイ・ハントのカメラによる切れ味のあるモノクロ映像は、登場人物達の鬱屈した心情を投影していて圧巻だ。
なお、本作によりドミトリクはいわゆる“赤狩り”の対象になり、辛酸を嘗めた。そんなアメリカの影の部分を背負っているあたりも、この映画の存在感を強調している。