(原題:PADMAN)見事なヒーロー映画だ。もっとも、この主人公はマーヴェルやDCコミックの映画に出てくるキャラクターのように特殊能力は持っていない。あくまでも生身の人間ながら、その業績はまさにヒーロー。しかも実話である。こういう人物が存在している事実を知るだけで、何だか晴れ晴れとした気分になってくる。
北インドの田舎町にある小さな工作所の従業員であるラクシュミは、新婚の妻ガヤトリと幸せな生活をスタートさせるはずだった。しかし、妻が生理の際に汚い布を使用し、さらにはその間は家に入れないことを知ってショックを受ける。彼は高い金を払って市販のナプキンを妻に買い与えるが、彼女はそんな高価なものは受け取れないと言う。ならば自分で安価なナプキンを作ろうと一念発起し、試行錯誤を続ける。
そんな彼の行動は近隣の者から奇異な目で見られ、妻とは別居するハメになるばかりか、追放処分同然で町から出て行くことになる。別の土地で失意の日々を送る彼は、ある日ひょんなことから女子大生兼ミュージシャンのパリーと知り合う。彼女はラクシュミの目的に理解を示し、大学教員である父親の協力も得て、ついに低コストでナプキンを大量生産できる機械によるビジネスモデルを提案する。
まず、この映画の時代設定が2001年であることに驚く。21世紀になっても、彼の国では田舎に行くと古い因習と頑迷な価値観に縛られているのだ。特に生理を“穢れ”と決めつけて忌避する風潮には呆れるしかない。そんな中にあって、ただ“妻の窮乏を救いたい”という一心でチャレンジを繰り返す主人公の姿には脱帽するのみだ。
脚本も手掛けたR・バールキの演出は、ラクシュミを決して“超人”として祭り上げることはなく、一般人でも高潔な目的意識と絶え間ない努力さえあれば、世の中を動かす仕事をやってのけるのだというポジティヴな姿勢を十二分に打ち出して好感が持てる。作劇のテンポにも淀みがない。
クライマックスは国連本部での主人公のスピーチで、観ている者を引き込んで感動させる。こんな経営者ばかりだったら、世界はどんなに良くなることか。故郷に一人残した妻と、献身的な仕事上のパートナーであるパリーとの間で揺れ動くラクシュミの姿、およびその決着の付け方にも感服した。
主演のアクシャイ・クマールは、困難に徒手空拳で立ち向かう好漢を、実に上手く表現している。パリーに扮したソーナム・カプールも丁寧でソツの無いパフォーマンスを見せ、何より、もの凄く可愛い(笑)。映像も音楽も言うこと無しで、今年度のアジア映画の収穫であることは間違いない。