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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「来る」

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 タイトルとは裏腹に、あまり“来ない”シャシンである。とにかく、ホラー映画という触れ込みにも関わらず、ちっとも怖くないのだ。もちろん、作品の狙いが怪奇描写ではなく“別のテーマ”であっても一向に構わない。それが上手く扱われていれば文句は無いのだが、これが中途半端である。結果として要領を得ないままエンドマークを迎え、鑑賞後の印象は芳しいものではない。

 田原秀樹は交際していた香奈とゴールインし、これから幸せな家庭を作るはずだった。だが、彼の勤務先に謎の訪問者が現れたことを切っ掛けに、夫婦生活に暗雲が立ちこめる。その訪問者と最初に対応した後輩は急死し、秀樹たちが住むマンションの一室には怪異な出来事が相次いで起こるようになる。友人の民族学者である津田に相談したところ、津田はオカルトライターの野崎と、霊媒師の血をひくキャバ嬢の真琴を秀樹に紹介する。

 どうにかして超常現象を抑えようとする彼らだが、犠牲者が増えるばかりか秀樹の2歳になる娘の知紗もその“何か”に取り込まれてしまう。どうやら“何か”は田原家の故郷の民族伝承に由来する妖魔らしいが、その力は強大で野崎たちの手に負えない。そこで真琴の姉で、国内最強の霊媒師である琴子が事態の収拾に乗り出す。琴子は全国から霊能者を集め、大規模な“祓いの儀式”を敢行する。

 まず、この“何か”の正体が示されていないことが噴飯ものだ。もちろん、ハリウッドのB級ホラーみたいにクリーチャーの全貌を明らかにすべきとか、説明的セリフで粉飾せよとか、そういうことを言いたいのではない。災厄をもたらしている“何か”の出自や生態および形状、さらに弱点(らしきもの)といった事柄をある程度提示しておかないと、文字通り“何でもあり”の状態になり、ドラマが空中分解してしまう。

 だからクライマックスの対決シーンは見た目は派手だが、何がどうなっているのか分からないし、ラストも腰砕けだ。かと思えば、家庭よりも“子育てブログ”の更新を優先させる秀樹や、家事を放棄する香奈、津田の屈折した心情などを通じて人間関係の危うさを描出する素振りが見受けられるが、そんなものは別の映画でやってほしい。

 また、野崎と元カノとの因縁や、真琴が抱えるディレンマなど、さほど重要とも思えないネタが不用意に詰め込まれており、映画は迷走するばかり。中島哲也の演出はこれらの交通整理が出来ないまま、勢いだけで乗り切ろうとしている。

 野崎を演じる岡田准一が一応“主演”ということになるのだろうが、ハッキリ言って野崎自体が不要なキャラクターだと思う。黒木華や妻夫木聡、小松菜奈、青木崇高、松たか子など顔触れは多彩ながら、いずれも熱演が空回りしている印象は拭えない。

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