(原題:Raise the Titanic )80年作品。ゴールデンラズベリー賞の、栄えある“第一回最低作品賞候補”になったシャシンらしい。ハッキリ言って出来としても凡庸なのだが、日本での公開当時は(他に目ぼしい対抗馬がいなかったためか)正月映画の目玉として扱われ、そこそこヒットしたという“実績”を持つに至っている(苦笑)。
元米海軍大佐のダーク・ピットは、現在は危険な任務を遂行しているフリーのエージェントである。彼が当局側の依頼で北極圏における調査の任務に就いていた際、行方不明だったアメリカ人鉱物学者を救出する。その学者によると、究極のレアメタル(?)であるビザニウムの鉱石が、1912年に沈んだタイタニック号に積み込まれていたという。ピットは、タイタニックの唯一の生き残りの老船員を探し出し、その事実を裏付ける証言を得る。
ピットからの報告を受けたワシントンの政府海洋研究機関は、早速タイタニック号の引き上げの大規模プロジェクトを密かに立ち上げる。だが、それはソ連大使館の情報部の知るところとなり、アメリカがビザニウムを独占することを阻止するため、ソ連側はマスコミにリークするという暴挙に出る。マスコミ報道によって世間は騒然となるが、ピット達は粛々と引き上げ計画を遂行する。
クライヴ・カッスラーによる原作は読んでいないが、カッスラー自身は本作を酷評しているという。なるほど、各キャラクターは“立って”いないし、米ソの鍔迫り合いもほとんど描かれていないことから、原作のかなりの部分が省略されていることは想像に難くない。ジェリー・ジェームソンの演出は平板で、メリハリの無い展開に終始。ラストの“オチ”は観客の裏をかいたつもりだろうが、脱力感を覚えるばかりだ。
結局、この映画のセールスポイントは終盤のタイタニック引き上げ場面のみだろう。さすがにこれは良く出来ている。当時としては特殊効果の粋を集めた映像だと思われる。このシーンに接するだけでも、鑑賞した価値があったと満足してしまった観客も多かったのだろう。
リチャード・ジョーダンにジェイソン・ロバーズ、デイヴィッド・セルビーといった配役は正直あまり印象に残らない。ただし、ジョン・バリーの音楽だけは立派だった。余談だが、この映画がテレビ放映されたとき、タイタニック引き上げ場面の途中にCMが挿入されたのには呆れた。放映局とスポンサーは映画の見どころを軽視していたと思われる。