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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「LBJ ケネディの意志を継いだ男」

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 (原題:LBJ )題材は興味深く、筋書きは正攻法で各キャストの仕事ぶりも確かだ。ロブ・ライナー監督は久々に演出に気合いが入っており、観る価値はあると思う。しかし、もっと突っ込んで描いてもらいたかったネタは他にもあり、その意味では不満を感じてしまった。

 1954年に上院議員に再選されたリンドン・ベインズ・ジョンソンは、多数党院内総務となり本会議と委員会を巧みに運営し多くの法案を成立させるために活動してきた。党内の地位を固めた彼だったが、60年の大統領予備選挙では大統領候補としてジョン・F・ケネディが選出され、ケネディはそのまま大統領になる。落胆するジョンソンだったが、ケネディは彼に副大統領のポストを用意した。

 だが、副大統領は“お飾り”の役職で、実質的に国政にはタッチ出来ないことを知るに及び、彼の屈託は大きくなるばかり。しかし63年11月22日、ダラスでケネディは暗殺され、ジョンソンは大統領に昇格する。ケネディの遺志を継いで公民権法を成立させようとするジョンソンだが、ロバート・F・ケネディ司法長官や、派閥のボスであるリチャード・ラッセル上院議員との調整に苦労することになる。

 この第36代アメリカ合衆国大統領を主人公にした映画は珍しい。少なくとも、前任のケネディを取り上げた映画が少なからず存在するのに比べ、スクリーン上では影が薄いのは確かだ。中にはオリヴァー・ストーン監督の「JFK」(91年)のように、彼がケネディ狙撃事件の黒幕だったかのように扱う映画もある。

 しかし本作では、粗野で力業に頼りがちだがケネディの意向を実行に移した功績のある人物として描かれる。恥ずかしながら私はジョンソンがテキサス州出身だったことを本作で知ったのだが、支持基盤が保守的な南部であったにも関わらず、リベラルな法案を通したことは驚いた。

 ウッディ・ハレルソン演じるジョンソンは、アクは強いが繊細な内面を持っていた味のあるキャラクター像を上手く表現している。またジェニファー・ジェイソン・リー扮する夫人のレディ・バードとの絶妙なコンビネーションは、なるほど実際は斯くの如しだったのだろうという説得力を持つ。

 しかしながら、彼は公民権法を成立させた一方で、北ベトナムへの爆撃を開始した張本人でもある。もちろん、彼の地への介入は前政権からの既成事実であったが、ジョンソンが軍事行動に踏み切った経緯を織り込んでも良かった。それに公民権法の他にもいろいろと社会政策に取り組んでいたが、そのあたりの言及も欲しかった。バリー・マーコウィッツのカメラによる映像と、マーク・シェイマンの音楽は万全。アメリカの現代史の一端を知る意味では観ても良い作品だ。

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