(原題:L'AMANT DOUBLE)フランソワ・オゾン監督としては珍しく、ホラー映画の方向に振った姿勢が見受けられるが、残念ながらサマになっていない。彼のスタイリッシュな映像スタイルと、スノッブな演出タッチでは、観客を怖がらせようとしても中途半端に終わる。企画の段階で、何やらボタンを掛け違ったような印象だ。
若い女クロエは、原因不明の腹痛に悩まされていた。心因性ではないかという内科医の指摘を受け、精神分析医ポールのカウンセリングを受けることになるが、すぐに症状が軽減される。そして2人は恋に落ち、一緒に暮らし始める。ある日、クロエは街でポールに瓜二つの男を見かける。彼の名はルイで、どうやらポールの双子の兄らしい。しかも、職業も同じ精神分析医だ。
ポールからルイのことを聞かされていなかったクロエは、興味を抱いてルイの診察室に足を運ぶが、ルイは優しく温厚なポールとは違い、乱暴で傲慢な男だった。だが、彼女はそんなルイにも惹かれていく。アメリカの女性作家ジョイス・キャロル・オーツの短編小説の映画化だ。
双子というモチーフを採用した怪異譚としてはデイヴィッド・クローネンバーグ監督の「戦慄の絆」(88年)が思い出されるが、本作はあれには遠く及ばない。理由は明らかで、ドラマの焦点を双子の側ではなく、それに関わるヒロインに向けているからだ。姿形が一緒の人間が存在していることの根源的な不可思議さに言及されておらず、ここではただの“ネタ”としか扱われていない。
ならば不条理な状況に追い込まれて次第に常軌を逸してゆくクロエの描き方が迫真的だったのかというと、これも不十分。アンジェイ・ズラウスキー監督の「ポゼッション」(81年)におけるイザベル・アジャーニの怪演ぐらいの域に持っていかなければ説得力は無いが、演じるマリーヌ・ヴァクトが元々モデルであるせいか、どこか小綺麗で表層的だ。実はクロエ自身にも双子のモチーフは内在するのだが、これが牽強付会に過ぎてシラケてしまう。
オゾンの演出はクロエの立ち振る舞いや、大道具・小道具(特に鏡を多用したトリッキーな仕掛け)の使い方にファッショナブルなテイストを感じるが、タッチが一本調子なので途中で眠気を催してしまった。取って付けたようなグロ描写も、クローネンバーグやデイヴィッド・リンチ等と比べるのもおこがましい。
モデルとしても知られるヴァクトの容姿は美しく、本人も頑張っているのだが、突き抜けるような求心力は不足している。相手役のジェレミー・レニエは、まあ“無難にやり遂げた”というレベルだ。ただ、クロエの母に扮したジャクリーン・ビセットはさすがの存在感を示していた。