とても楽しく観ることが出来た。序盤はよくあるゾンビ物のルーティンを踏襲しているように見えて、全編ワンカットの撮影に執着していることや、劇中の監督の常軌を逸した言動などで、独自性を大いにアピール。その後に描かれる“本編”のドラマは、畳み掛ける調子で全く弛緩した部分が無い。そして観終わって強く印象付けられるのは、作り手達の映画に対する熱い想いである。
とある自主映画のスタッフとキャストが、ゾンビ映画を撮影するため、携帯電話も通じないほどの山奥にある廃墟にやってくる。低予算とはいえ監督は本気で、俳優の演技に満足せず、42テイクを重ねてもOKを出さない。すると、なぜかそこに本物のゾンビが現れ、撮影隊に襲いかかる。あたりは修羅場になるが、監督は“カメラはそのまま!”と言い放ち、水を得た魚のように活き活きと撮影を続行するのだった。
これ以上ストーリーを紹介するのはネタバレになってしまうので差し控えるが、あえて言えば本作と近い構造を持っていたのが、三谷幸喜監督の「ラヂオの時間」(97年)だろう。もっともあれはラジオドラマに題材を求めており、今回の映画製作の話とは違うのだが、仕掛け自体は共通している。だが、ぬるいギャグと行き当たりばったりの展開に終始した三谷作品に比べて、この映画はこころざしもヴォルテージもはるかに高い。まさに快作だ。
題材こそB級ホラーだが、監督の上田慎一郎の手による脚本は実にウェルメイドである。序盤から中盤に掛けて散りばめられた伏線が、終盤にすべて回収されていくというプロセスには、まさに映画的快感が横溢している。
加えて演技陣も素晴らしい。低予算なので名のある俳優は出ていないが、全員大健闘だ。特に、監督役の濱津隆之とスタッフの一人を演じるしゅはまはるみの演技は、オーバーアクト一歩手前ながら目覚ましい求心力を発揮している。
件のワンシーン・ワンカットで撮られたゾンビ映画の映像処理も上手くいっている。往年の名映画監督である牧野省三は“1スジ(脚本)、2ヌケ(技術)、3ドウサ(演技)”を映画作りの三大原則としていたが、この映画にはそのすべてが高いレベルで揃っている。
本作は当初東京都内のミニシアター2館で公開されていたが、その後着々と上映館を増やし続け、やがて全国で100館以上の映画館での上映が実現している。これはひとえに、口コミの威力だろう。しかもそこには“ネタバレ厳禁”という魅力的なモチーフが付与されている。実に幸運なシチュエーションでヒットしたわけだが、上田監督の力量は確かだ。今後は次々と仕事のオファーが来ると予想するが、堅実なスタンスを崩さずに、面白い映画を作り続けて欲しい。