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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」

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 (原題:THE POST)スピルバーグの映画にしてはかなり硬派で、かつ見応えがある。彼がこういうハードなタッチを打ち出したのは、2005年製作の「ミュンヘン」以来だと思われる。聞けばトランプ大統領就任の45日後にスピルバーグ自身から製作が発表され、比較的短期間で撮られたらしいが、それだけ作者としては切迫した製作動機があったということだろう。

 71年、長らく続いていたベトナム戦争は終わる気配がなく、アメリカ国民の間には厭戦気分が漂っていた。同年6月、米国防総省がベトナム戦争に関する経過や分析を記録した機密文書、通称“ペンタゴン・ペーパーズ”の存在をニューヨークタイムスがスクープする。だが、政府は圧力をかけ、同紙による続報は差し止められてしまう。

 一方、ワシントン・ポストの社主キャサリン・グラハムはアメリカ初の女性新聞発行人として知られていたが、取引銀行と出資者はいい顔をしなかった。そんな中、ポスト紙のスタッフの中に“ペンタゴン・ペーパーズ”をマスコミにリークした者の知り合いがいて、同紙はこの文書の全貌を掴むことに成功する。キャサリンは編集主幹のベン・ブラッドリーらと共に、真実を明らかにすべく奔走するが、政府からのプレッシャーはますます強くなり、ついには国家機密文書の情報漏洩の嫌疑で告発されそうになる。

 ヤヌス・カミンスキーのカメラによる寒色系の画面の中で、先の全く見えない戦いに身を投じる記者たちの立ち振る舞いは、実にハードボイルドだ。ラスト近くを除けば、希望的観測を匂わせる素振りは微塵もない。

 だが、観客は、ワシントン・ポスト紙がこのピンチを切り抜け、さらにこの後に起こったウォーターゲート事件では“主役”の一角を担ったことを知っている。映画はそんな既存の筋書きにさらなる興趣を付与するべく、社主のキャサリンの奮闘も強調される。本来は今は亡き夫が担っていた仕事であり、女性であることで世間から“軽く”見られていた。そこを持ち前のソフトな社交術で周囲の追及を巧みにかわしつつ、最後に重大な決断を下すという、天晴な“女のドラマ”を展開させているのだ。

 演じるメリル・ストリープは本作で21回目のアカデミー賞候補になったが、数多い彼女のフィルモグラフィの中でも屈指のパフォーマンスだと思う。ベンに扮するトム・ハンクスを除けば、サラ・ポールソンやボブ・オデンカーク、トレイシー・レッツといった派手さはないが渋い演技派をズラリと並べているのもポイントが高い。

 さて、最近観た「ザ・シークレットマン」も含め、彼の国では政治を扱う実録ドラマが作られ、かつそれが評価を得ているという状況に比べ、日本の映画界は随分と見劣りがする。別に“時事ネタを取り上げないのはダメだ”と言うつもりはないが、勝手な“忖度”やら“思い込み”やらで、テーマの多様性を自ら狭めてしまっては、ジリ貧になるばかりだ。

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