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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「魅せられて四月」

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 (原題:ENCHANTED APRIL )92年イギリス作品。文字通り、4月の明るい陽光に晴れ晴れとした気分になれる映画だ。人間、いくら“逃げずに逆境に立ち向かえ!”と言われても、限界はある。それよりも、ちょっと環境を変えるだけで解決の糸口が見つかることだってあるのだ。そんな楽天的なスタンスが実に好ましい。

 1920年代、ロンドンに住む主婦ロッティ・ウィルキンズは、夫との愛も冷めて殺伐とした日々を送っていた。そんな中、新聞記事に“地中海に臨むイタリアの小さな城を4月いっぱい貸します。家具、使用人付き”という一文があるのを見つける。彼女は友人の主婦ローズおよび賃貸料60ポンドを捻出するため社交界の花形であるキャロライン・デスターと、気位の高い老婦人ミセス・フィッシャーを誘い、4人でイタリアに出発する。



 暗くて肌寒いロンドンとは打って変わった風光明媚な地中海沿岸の城に到着した4人は、リフレッシュしたように明るく振る舞い、互いに親しくなる。ロッティは夫のメラーシュを呼び寄せ、ローズを気に入った城の持主ブリッグスもやって来る。ローズの夫フレデリックも現れるが、実は彼の目当てはキャロラインだった。そんな各人の微妙な屈託や下心は存続しつつも、皆それぞれ折り合いをつけ、前向きな気分で4月を過ごす。オーストラリア出身の作家エリザベス・フォン・アーニムによる同名小説の映画化だ。

 とにかく、陰鬱な雨が降り続くロンドンと目の覚めるように美しいイタリアとのコントラストが見事だ。一行がずぶ濡れになって浜辺の城にたどり着いた翌朝、輝く海に向かってロッティが窓を開けたその瞬間、観る者を鮮やかな南欧の春に呼び込む、その呼吸に感心する。

 マイク・ニューウェルの演出は手堅く、ミランダ・リチャードソンをはじめジョーン・プローライト、ポリー・ウォーカー、ジョシー・ローレンス、アルフレッド・モリーナ、ジム・ブロードベントという名優を並べ、シーナ・ネイピアによるハイ・クォリティな衣装デザインも忘れがたく、鑑賞後の満足度は高い。難を言えば、登場人物が突然自分の心境をモノローグで語り出すケースが目立つことか(それらは映像で語るべきものであろう)。それさえ無ければ、傑作になったところだ。

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