(原題:THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING,MISSOURI)まったく評価出来ない。聞けば巷では絶賛の嵐で、各種アワードも獲得しているが、個人的に面白いと思えないものを持ち上げる気はさらさら無い。とにかく、筋書きやキャラクター設定をはじめ、映画のベクトルそのものが不適切な方向を示している。
ミズーリ州の田舎町エビング。土産物屋を営む中年女性ミルドレッド・ヘイズは、寂れた道路沿いに巨大な3枚の広告看板を出す。そこには警察の無策を批判する言葉が綴られていた。彼女の娘アンジェラは、その場所でレイプされた後に殺害され、それから7か月経っても解決の目処は立っていない。そんな現状に腹を立てての所業であった。署長のウィロビーは人望が厚く、しかもガンで余命幾ばくも無い。町民はウィロビーに同情するあまり、ミルドレッドを爪弾きにする。その急先鋒がジェイソン・ディクソン巡査で、署長を敬愛するあまりミルドレッドに対して数々の嫌がらせをする。やがてミルドレッドは無謀な行動を起こすが、事態は混迷の度を増すばかりだ。
感情移入出来る者がほとんどいない。主人公は義憤に駆られていたとはいえ、やってることはテロリストと変わらない。彼女の別れた夫はロクデナシで、殺された娘も性格が悪そうなヤンキーだ。ウィロビーは好人物かと思ったら、早々と勝手に退場してしまう。ジェイソンは不良警官で、おまけにマザコン。ロクでもない連中が、ロクでもないことをやらかす場面が芸もなく延々と続き、いい加減観ていてウンザリしてくる。
そもそも、各キャラクターの設定そのものが、すべて作者の頭の中でデッチ上げられたもので、リアリティの欠片も無いのだ(性根の腐った人間が、手紙一通で改心するわけがない)。一部では“これはブラック・コメディだ”という評もあるらしいが、そういう御膳立ては見られず笑える場面なんか一つも無い。また“先が読めないことが面白い”との意見もあると聞くが、要するにそれは“何の脈絡も無く場当たり的に話をデッチ上げている”というのと似たようなものだ。
第一、これは現代の話なのだろうか。出てくるテレビがブラウン管式だし、白昼堂々警官が一般市民に対して暴行をはたらいても誰も咎めない。新任の署長も張本人をクビにはするが、逮捕も何もしない。ひょっとしてこれは西部劇のパロディか? ならばいっそのことウエスタンにしてしまうべきだ。斯様なグダグダの展開が続いた後、待っていたのは拍子抜けするラストのみ。心底呆れた。
タイトルにある3つの掲示板が、あまり存在感が無いのも難点だ。脚本も担当した監督のマーティン・マクドナーは元々は劇作家である。おそらくは、このネタを舞台でやると、ステージの真ん中に3つの掲示板がデカデカとセッティングされ、威圧感を伴ってドラマを支えるのだろう。だが、舞台と映画とは違う。単なる小道具として並べておくだけでは、何のメタファーにもならない。
主演のフランシス・マクドーマンドをはじめ、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェルといったキャストは熱演だが、映画の内容がこの体たらくでは“お疲れさん”と言うしかない。