(原題:IP5 )92年フランス作品。主人公の若者トニー(オリヴィエ・マルティネス)は、街中の壁にスプレーによる見事な作品を無断で残していく“アーティスト”だが、それが仲間の怒りを買い、グルノーブルへ(おそらく麻薬入りの)人形をトラック輸送する仕事をやらされるハメになる。相棒は同じアパートに住む黒人少年ジョッキー(セクー・サル)。
ところが以前ジョッキーの部屋に来ていた看護婦グロリア(ジェラルディン・ペラス)が忘れられないトニーは、車を盗んで彼女のいるトゥールーズへ行こうとする。その途中で出会ったのが謎の老人レオンである。自然と対話することが出来るこの老人は、トニーたちの足出まといになるかと思えば、思わぬ機転で彼らを救ったりする。3人の奇妙な旅を描くロード・ムービー。
何かジャン=ジャック・ベネックス監督に心境の変化があったのでは、と思わせるような作品だ。デビュー作「ディーバ」(81年)に代表されるように、相反する二つの事象を並べてそのコントラストにより主題を明らかにしていくという手法はこの作品にも共通している。「ディーバ」ではクラック音楽とロック・ミュージック、あるいはブランド志向とアンティーク趣味、そして今回は都市と自然、若者と老人、現実と幻想etc.
しかし、ポップでスタイリッシュなタッチで現代的風俗をすくい上げる“映像感覚派”(なんじゃ、そりゃ)のベネックスが、いきなり正面から愛や友情や自然保護といった明快なテーマを描いているのは驚きでもある。しかもクライマックスは、病床にある老人へのジョッキーの延々と続くセリフによって成立している。ここでオーソドックスな映画ファンは納得して感動の涙を流すのかもしれないが、前作「ロザリンとライオン」(89年)の目もくらむ映像マジックに感動しまくった私としては“何か違うんじゃないの?”と言いたくなる。
エコロジー・ブームに乗っかっただけという意見もあるようだが、私が思うに、これはレオン老人を演じるイヴ・モンタンへのオマージュではなかったのか。40年前に恋人を失い、その無念さを絶えず心の奥にしまいこんでいたレオン。実業家として成功はしたものの、満たされない気持ちで晩年を迎え、老人病院を抜け出して若者たちと旅に出る。そして最後になってやっと心の平穏を得る・・・・といった役どころを過不足なく演じられるのは、モンタンの豊かな人間性と円熟味をもって以外にないという判断からなのだろう。
心臓の悪いモンタンが雨に打たれたり、裸で湖に入って行く場面は気になったが、実に絵になっていることは確かであり、神秘性さえも感じられる。ガブリエル・ヤレドの音楽も効果的だ。イヴ・モンタンは、この映画の撮影直後に倒れ、そのまま帰らぬ人となった。数多い彼の出演映画の、これが最後の作品である。