実際に起こった連続殺人事件を下敷きにした映画といえば、園子温監督の快作「冷たい熱帯魚」(2011年)を思い出す向きは多いだろうが、本作はその足元にも及ばない。キャラクターの造形が雑であるばかりではなく、肝心の“描くべきポイント”が見い出せず、単に事実をそのままトレースしているだけである。観終わって認識できるのは、作者の力量不足だ。
兄のサトシと共に裏稼業に身をやつすタカノリの父親は、弱小ヤクザの組長だ。シノギは上手くいかず、上部組織への上納金の支払いもままならない状況で、ついには多額の借金を背負い込むことになる。両親が近所に住む資産家の高利貸しを襲って金を強奪しようと相談しているのを聞きつけた兄弟は、先手を打って一家の息子を殺害する。
それを知った父親とヒステリックな母親は、一人殺すなら全員殺すも同じこととばかりに、家族総出で人間狩りを断行することを決める。2004年に福岡県大牟田市で発生した、被告である家族4人全員に死刑判決が下った凄惨な事件を描く。服役中の次男の手記を元にした鈴木智彦によるルポルタージュの映画化だ。
観ていて困ったのは、登場人物の描写が薄っぺらであることだ。主人公のタカノリをはじめ、どいつもこいつもキャラクターに血が通っていない。それは被害者に関しても同様で、どうでもいい連中が勝手に退場してゆく様子が漫然と綴られるのみ。だから、事件の異常性やセンセーショナリズムがまるで表現されていない。
ここで“キャラクターに対する感情移入なんか関係ない。乾いた無機質性こそが犯罪の核心だ”とか何とかいう意見も出てくるのかもしれないが、本作はその無機質性、つまり“マイナスの感情移入(?)”さえ喚起されない、描写の弱体ぶりだけが目立ってしまうのだ。
さらには第一の被害者の寒々しい“嗜好”とか、取って付けたようにタカノリが被害者の“幻影”らしきものに悩まされるくだりとか、そういう思いつき程度のモチーフが並べられるに及び、観ているこちらはタメ息しか出ない。
小林勇貴の演出は未熟で、ドラマ運びにメリハリが付けられておらず、平板な展開に終始。六平直政や絵加奈子、落合モトキ、毎熊克哉、鳥居みゆきといったキャストも精彩が無い。ただ、主演の間宮祥太朗の面構えだけは良い。「帝一の國」での好演も併せて、本年度の新人賞の有力候補だろう。
なお、実際の事件では次男は元力士である。昨今の角界を賑わす不祥事を考えると、何となくこの世界の“特殊性”が連想されるようで、複雑な気分になる。