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Channel: 元・副会長のCinema Days
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エリオット・パティスン「頭蓋骨のマントラ」

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 ミステリーとしては設定がかなりの“変化球”だが、決して奇を衒うことがなくストレートにグイグイと引き込まれる。国際的な人権問題を告発する等、ジャーナリスティックな視点を伴っているため、話が全然絵空事にならない。読み応えのある本だと言える。

 中国経済部の主任監察官である単道雲(シャン・タオユン)は、政財界の大物が引き起こしたスキャンダルを捜査していたが、いささか“深入り”しすぎたため、当局側によってチベットの奥地・ラドゥン州の強制労働収容所に入れられてしまう。日々過酷な強制労働に駆り出され、心身共に消耗した単だが、ある日作業現場で男の首なし死体が発見されたことから、彼を取り巻く環境は一変する。



 近々司法部の監査が入る予定があるのに、殺人事件が起こったことを上部機関に知られるのはまずいと思った州の軍最高責任者は、何と囚人である単に事件の解決を命じるのだった。だが、中国の硬直した官僚主義が壁となって立ちはだかり、軍や共産党の幹部などの勝手な思惑も入り乱れ、捜査は難航する。

 不条理な状況で無理筋の仕事をあてがわれた主人公の屈託は良く描けているが、それよりも周りのキャラクターが“立って”いる。監視役の副官や単と協力して捜査に当たる若いチベット僧、そして囚人仲間のチベット人達、いずれも、それぞれで一冊の本が書けてしまうほど印象的だ。特に、厳しい境遇においても信仰を捨てることがないラマ僧たちの姿は、とても感動的だ。

 作者はアメリカ人(白人)で、主人公が中国人、舞台はチベットということから勘案する通り、中国のチベット弾圧が大々的に取り上げられているが、後半の展開がひとひねりもふたひねりもしており、単純な“イデオロギー糾弾小説”にしていないのは面白い。作

 者のパティスンは執筆時には小説家としてのキャリアが浅かったためか(本業はジャーナリスト)、少々文章が要領を得ない部分もあるが(翻訳のせいかもしれない)、チベットという神秘の国の描写はなかなかに興味深い。これは映画化しても面白いかもしれない。

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