92年作品。いくつかの映画と数多くのテレビドラマのシナリオを手掛けた吉田剛の、現時点では唯一の監督作である。それも、当初は野村芳太郎がメガホンを取る予定だったが、体調を崩して降板したため吉田にお鉢が回ってきたという経緯がある。終末医療を描いた看護婦作家・江川晴の小説「外科病棟」の映画化だ。
決して明るくはない題材を扱っているため、全体のトーンは暗鬱だ。それでも、病気の父親を介護も出来ない下町娘の新米ナースが、次々と重症患者が運ばれてくる大学病院の外科病棟で、一人前の医療スタッフとして成長していく姿が作劇の中心に置かれているため、絶望的なまでには暗くならない。また“患者の気持ちになって看護する”というのがモットーの婦長や、“組合的立場”を崩そうとしない先輩看護婦など、バラエティに富んだキャラクターが並べられているのもポイントが高い。
中盤以降は、告知主義者のガン治療の権威である主任教授が、皮肉にも手術不可能な末期的肺ガンになるというドラマティックな話がメインとなる。病気の恐怖で落ち込む教授と、気丈に接する婦長とのやり取りは、人間の尊厳と職業観の相克が示されて見応えがある。
しかしながら、あまりに多くの題材を取り入れ過ぎたためか、ほとんどのセリフが状況説明にしかなっていない。脚本も担当している吉田監督のミスであろう。特にホスピスの重要性を説くシーンでは(当時の)厚生省のPRにしかなっておらず、観ていて脱力した。もうちょっとテーマを絞って、スマートな展開を心がけて欲しかった。
ただ、教授と婦長との“道行き”を暗示させるような幕切れは、効果的な映像処理も相まって盛り上がる。こうしたエンタテインメント性をもう少し全編に散りばめていたら、もっと訴求力が高まっただろう。教授を演じる渡瀬恒彦は演技賞ものの好演。婦長役の大竹しのぶも素晴らしい(ラストのセリフは利いた)。新人ナースに扮する和久井映見や、藤真利子、高橋長英、加藤剛といった面々も的確な仕事をしている。観ていて辛くなる箇所も多々あり、無条件には奨めないが、決して悪くはない映画であることは確かだ。
決して明るくはない題材を扱っているため、全体のトーンは暗鬱だ。それでも、病気の父親を介護も出来ない下町娘の新米ナースが、次々と重症患者が運ばれてくる大学病院の外科病棟で、一人前の医療スタッフとして成長していく姿が作劇の中心に置かれているため、絶望的なまでには暗くならない。また“患者の気持ちになって看護する”というのがモットーの婦長や、“組合的立場”を崩そうとしない先輩看護婦など、バラエティに富んだキャラクターが並べられているのもポイントが高い。
中盤以降は、告知主義者のガン治療の権威である主任教授が、皮肉にも手術不可能な末期的肺ガンになるというドラマティックな話がメインとなる。病気の恐怖で落ち込む教授と、気丈に接する婦長とのやり取りは、人間の尊厳と職業観の相克が示されて見応えがある。
しかしながら、あまりに多くの題材を取り入れ過ぎたためか、ほとんどのセリフが状況説明にしかなっていない。脚本も担当している吉田監督のミスであろう。特にホスピスの重要性を説くシーンでは(当時の)厚生省のPRにしかなっておらず、観ていて脱力した。もうちょっとテーマを絞って、スマートな展開を心がけて欲しかった。
ただ、教授と婦長との“道行き”を暗示させるような幕切れは、効果的な映像処理も相まって盛り上がる。こうしたエンタテインメント性をもう少し全編に散りばめていたら、もっと訴求力が高まっただろう。教授を演じる渡瀬恒彦は演技賞ものの好演。婦長役の大竹しのぶも素晴らしい(ラストのセリフは利いた)。新人ナースに扮する和久井映見や、藤真利子、高橋長英、加藤剛といった面々も的確な仕事をしている。観ていて辛くなる箇所も多々あり、無条件には奨めないが、決して悪くはない映画であることは確かだ。