(原題:ELLE)物足りない出来だ。監督がポール・ヴァーホーヴェンだから、もっとエゲツなく、もっとセンセーショナルに盛り上げて然るべきだったが、彼もトシを取って丸くなったのか切れ味不足で退屈至極な展開に終始。期待していた“変態度”が低すぎて話にならない(笑)。
ゲーム会社の社長を務めるミシェルは、ある日自宅に侵入してきた覆面の男にレイプされてしまう。ところが彼女は警察に通報もせず、訪ねてきた息子ヴァンサンには何事も無かったかのように接する。翌日、いつも通りに出社したミシェルは、共同経営者で親友のアンナと共にスタッフから新作ゲームのプレゼンテーションを受ける。そして周囲に暴行を受けたことを平然と触れ回る。
ミシェルの父は死刑囚で、母親は若い男を漁っている。ヴァンサンの妻は病院で出産するのだが、赤ん坊の肌の色は黒くて明らかに彼の子供ではない。それでもヴァンサンは普通の夫婦を演じようとする。近所に住む銀行員パトリキは一見マジメだが、熱心すぎるカトリック教徒の妻に振り回されている。斯様に一筋縄ではいかない面々に囲まれているミシェルだが、レイプ事件の真犯人とも奇妙な関わりを持ち続けることになる。
主演のイザベル・ユペールが高評価のようだが、逆に彼女が画面の真ん中に鎮座することで、映画自体のインパクトがかなり薄められているような気がする。なぜなら、元々ユペールは根っからのクセ者で、特にミヒャエル・ハネケ監督の「ピアニスト」(2001年)では、超弩級の変態ぶりを披露している。そんな彼女が本作でアブノーマルな役柄をエキセントリックなタッチで演じても、“何を今さら”という感じなのだ。
それでもヴァーホーヴェンの演出が賑々しく盛り上げてくれるのならば良かったのだが、今回の彼の仕事は何やらスマートでハイ・ブロウな線を狙っているためか、どうも及び腰だ。
曰くありげな人物を多数配しているわりには、突き抜けた描写が見られない。ラストなんか完全に拍子抜け。少なくともヴァーホーヴェンが2006年に取った「ブラックブック」の足下にも及ばない。主役をユペールのような難物ではなく、普段はマトモな役をこなしているマトモな女優を起用した方が、数段効果的だったはずだ。
ローラン・ラフィットやアンヌ・コンシニ、シャルル・ベルリングといった脇のキャストは、馴染みが無いせいか印象が薄い。ステファーヌ・フォンテーヌの撮影とアン・ダッドリーの音楽は及第点に達しているが、それだけでは評価は出来ない。