(原題:BABY DRIVER )世評通りの面白さだ。ストーリーはありがちだが、キャラクター設定と“仕掛け”が抜群に上手く、最後までまったく飽きさせない。一部では“カーチェイス版「ラ・ラ・ランド」”という声もあるらしいが、はっきり言って「ラ・ラ・ランド」より遙かに楽しめる。特に音楽の使い方の巧拙は、天と地ほどの違いがある。
アトランタの町で犯罪組織から“逃がし屋”の仕事を請け負っている通称“ベイビー”は、若造のくせに超高度なドライビングテクニックで警察をキリキリ舞いさせ、成功率は100%を誇る。彼は幼い時の事故の後遺症で慢性の耳鳴りを患っているのだが、自分なりにプレイリストを仕上げたiPodで音楽を聴く時だけ耳鳴りが治まり、凄腕のドライバーに変身するのだった。ある日彼はレストランでウェイトレスのデボラに一目惚れしてしまい、彼女と付き合うために足を洗うことを決心する。しかしベイビーを手放したくない彼のボスは、逆らうとデボラに危害を加えることを仄めかして、より危険な仕事に向かわせる。
主人公が聴く音楽とカーアクションとが見事にシンクロしていることに、まず驚嘆する。音楽に合わせて車が縦横無尽に走り回り、宙を飛び、クラッシュする。使われている楽曲がこれまたセンス満点で、クイーンやサム&テイヴなどのポピュラーなナンバーから、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンやフォーカスなどの通好みまで、作者および主人公のディープな趣味を見せつけるかの如く効果的に並べられている。また、ベイビーが自作の曲を保存するメディアがカセットテープだというのも泣かせる。
予想通り、ベイビーが中盤以降に取り組むミッションは一筋縄ではいかず、仲間同士の裏切りや思わぬトラブルによって事態は二転三転する。ボスよりも悪辣なギャングに追いかけられる一方で、ベイビーと今は亡き両親との関係や、耳が不自由な養父に対する愛情などが挿入され、ドラマに厚みを与えている。
これがハリウッド進出第一作になる英国の異能エドガー・ライトの演出はノリまくり、緩急も加えた名人芸で唸らされる。主演のアンセル・エルゴートは文字通りのベイビー・フェイスだが、芯の強さを感じさせる。ヒロイン役のリリー・ジェームズも(少しケバいけど)悪くない。またケヴィン・スペイシーとジェイミー・フォックスが嬉々として悪役を演じていいるのも見ものだ。
個人的にウケたのが主人公の(若い頃の)母親役にスカイ・フェレイラが扮していて、得意の歌声を披露していること。さらに、裁判所の職員役でウォルター・ヒル監督が顔を見せているのにはニヤリとした。言うまでもなく彼が撮った「ザ・ドライバー」(78年)は、このジャンルの代表作だ。あの映画と比べてみるのも一興であろう。