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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「フリーター」

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 87年作品。よく“映画は時代を映す鏡である”という説を見聞きするが、この作品なんか、最たるものだろう。現在ならば絶対に取り上げられない題材ながら、当時はこんな企画が堂々と採用されていたのだ。まさに隔世の感がある。

 大学浪人中の石巻健次は勉強もせず、アルバイトに精を出す日々だ。彼はまた友人の志水隆が主宰する“フリーター・ネットワーク”という人材派遣サークルにも参加していた。ある日、キャッチ・セールスのアルバイトをしていた健次は、逆にキャッチ・セールスの女の子に引っ掛かってしまう。向日葵と名乗る彼女の色香にヤラれて、うっかり商品購入のサインまでしてしまったのだ。しかも、隆が見破るまでだまされたのも気付かない始末。

 そんなトラブルに見舞われながらも気楽なフリーター稼業に勤しむ彼らだが、メンバーの一人である香織の父親の経営する店が怪しげな仕事師の相沢に乗っ取られたことを切っ掛けに、ひとつ大きなビジネスをブチ上げることを思い付く。

 監督は「純」(80年)や「卍(まんじ)」(83年)などで実績を積んでいた横山博人だが、明らかに本作では気分が乗っていない。単なる“やっつけ仕事”だろう。この頃の日本はバブルの絶頂期に向けて、全体が浮かれていた。フリーターは若者の新しい働き方だ何だと持て囃されたらしいが、結局それは好景気があっての話だ。現時点でフリーターを扱うと、ワーキングプアだ何だと暗い話になるのは確実。結局、世のトレンドなんてのはカネ回りの善し悪しで決まってしまうのである。

 さて、本作に出てくる連中は揃いも揃って脳天気。主人公達が仕掛ける事業とは中古LSIの横流しなのだが、これも現時点では成り立たない。ラストでは“フリーター万歳!”みたいなシュプレヒコールが上げられるものの、今観たら苦笑するしかないだろう。健次役の金山一彦をはじめ、洞口依子に鷲尾いさ子、石橋蓮司や三浦友和に至るまで、みんな軽佻浮薄なテイストに染め上げられている。極めつけは隆を演じる羽賀研二。もう見事なほどのライト感覚だ。何やらバブル崩壊から現在までの彼の運命を暗示しているようで、複雑な気分になる。

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