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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「死んでもいい」

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 92年作品。石井隆監督による、初の一般映画である。結果から先に言うと、イマイチ物足りない出来だ。何より、石井の本分である漫画家としての素養が表に出すぎているため、映画本来のメソッドがトレースされていない。そのため、ストーリーが盛り上がっていかないのだ。プロデューサー(伊地智啓)が上手く機能していない結果であるとも言える。

 山梨県の田舎町で風来坊の青年・信は名美という女に出会う。彼女には不動産屋を営む英樹という夫がいたが、信は名美にゾッコンになる。彼は英樹の会社の従業員となって当地で暮らすようになるが、事あるごとに名美との逢瀬を重ね、いつしか英樹を殺害して彼女と一緒になろうと考えるようになる。ある雨の夜、信はそれを実行に移そうとする。



 序盤の、信と名美とが出会うシークエンスで、必要以上の多数のアングルから対象を捉えるという意味の無い所業を目の当たりにした時点で、鑑賞する気が失せてきた。そういう“カッコつけた”演出は最後まで続く。たぶん漫画ならばスタイリッシュな描き方として評価されるのだろうが、映画において手法ばかりが先行すると、観ていて鼻白むばかりである。

 原作は「郵便配達は二度ベルを鳴らす」を下敷きにした西村望の「火の蛾」だから、筋書きは始まる前からだいたい分かる。その一直線のストーリーを訴求力のある作品として仕上げるには、キャラクターの内面描写と粘りのある演出が必要だが、それがあまり見当たらない。小手先のテクニックで乗り切ろうという、そんな意図ばかりが窺える。

 そもそも、名美役に大竹しのぶを起用したのが間違い。彼女の“腹の中では何を考えているかわからない”ような雰囲気は、それだけでネタが割れてしまう。ここは逆に“性格に裏表が無さそう”に見える女優を起用した方が、スリリングな展開になったと思われる。

 信に扮する永瀬正敏はいつも通りの仕事ぶりで、特筆すべきものはない。英樹を演じる室田日出男は頑張ってはいるが、役柄自体が救われないので、影が薄くなるのは仕方が無い。ただ、妙なところで登場する竹中直人だけは面白かったが・・・・。撮影は佐々木原保志で、音楽は安川午朗という、いつもの“石井組”のスタッフだが、何やら気合いが入っていない印象だ。

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