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Channel: 元・副会長のCinema Days
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東芝と音楽事業。

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 日本を代表する大手電機メーカーだった東芝も、放漫経営により今や存亡の危機にある。原発という先の見えない事業に大枚を叩いてしまった幹部連中は糾弾されて然るべきだが、減給とリストラを強いられる従業員こそいい迷惑だ。もしも倒産ということになると、膨大な数の社員が路頭に迷い、日本経済にも悪影響を及ぼす。まことに困ったものである。

 そういえば、私が子供の頃から東芝の製品は家に数多く置かれていた。白物家電やテレビ、掃除機もすべて東芝製。実家の近くに“東芝ショップ”があり、とにかく“東芝のものを買っておけば間違いはない”というのが我が家の不文律みたいなものだった(笑)。昔は一社提供のテレビ番組もけっこうあって、その頃はまさかこの会社が現在のようになろうとは、誰も想像していなかったと思う。

 かつて東芝はレコード会社も保有していた。米国のキャピトルEMIの出資を経て、73年に発足した東芝EMIである。当時EMIは世界有数のレコード・メーカーであり、ザ・ビートルズをはじめとして所属しているミュージシャンも大物揃い。クラシックの分野でも名盤が目白押しだった。国内のミュージシャンも粒揃いで、ヒット作が出るとビルが建つほどだったらしい。



 東芝はソフトを供給するだけではなく、レコードの製造も手掛けていた。その品質は国内盤では随一だったと思う。またCD時代になってからもディスクは83年から自社工場で製造。当時はCDの製造元は世界に数社しか存在しなかったが、その中でも1,2を争う品質を誇っていたのではないだろうか。

 また、東芝はピュア・オーディオも展開していた。ブランド名はAurex(オーレックス)で、確か70年代半ばに発足したと思う。オーディオ製品自体はそれ以前からリリースしていたが、松下電器(現Panasonic)のTechnics等に対抗するためか、本格的な取り組みをアピールしていた。高評価のモデルも多数あったが、80年代半ばには撤退してしまったのは惜しまれる(現在は別会社の安価なシステムにおいてブランド名だけは復活している)。

 さて、東芝は2006年に音楽事業からの撤退を決め、翌年に東芝EMIをEMIミュージックに売却した。皮肉にも、東芝がウエスチングハウス社を買収したのが、ちょうどこの頃である。

 その後のEMIはデジタル音楽配信の出遅れもあり、経営が傾いた。そしてついに2012年、音楽出版事業はソニーに、レコード部門についてはユニバーサルによって買収されてしまう。その後音楽ソフトの権利は(一部を除いて)ワーナーに売却された。かつてのEMIの名盤の数々が、ライバルだったはずのワーナー・ミュージックのロゴが入ったパッケージで店頭に並んでいるのを見ると、何とも複雑な気分になる。

 乱暴な言い方をすれば、東芝は音楽事業という(逓減傾向にはあったが)手堅い仕事を捨て、同時に原発という危なっかしい稼業にのめり込んだという見方もできる。もちろん音楽関係のビジネスとエネルギー事業とは違うが、印象としては“実業と虚業”ほどの差異があると思う。

 あのまま東芝が音楽事業を見捨てずに、地道にビジネスを展開していたら、少しはこの業界も賑わっていたかもしれない。いずれにしろ、いくら伝統のある企業でも、それをうまく維持して発展させるかどうかは、トップの見識次第だということだろう。

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