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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ジェイソン・ボーン」

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 (原題:JASON BOURNE)何やら、証文の出し遅れみたいな印象を受ける映画だ。そもそも、前の三部作でこのシリーズはひとまず完結しているはずだった。それでも今回あえて主人公ボーンを引っ張り出すからには、それに相応しいネタを用意して然るべきだが、これがどうにも気勢が上がらない。有り体に言えば、前回までのモチーフの“残りカス”を必死で集めて仕立て上げたという感じだ。

 前作「ボーン・アルティメイタム」での大立ち回りから数年後、行方知れずになっていたジェイソンはストリートファイトの世界で日銭を稼ぎつつひっそりと生きていた。彼の元同僚ニッキーはCIAの悪事を暴くため、ハッカーグループと組んで当局側のメインサーバーから機密を盗み出す。そこには、ボーン自身も知らない事実が隠されていた。ニッキーはそのことをボーンに知らせるべく、彼が潜伏していると思われるギリシアへと向かう。しかし、それを察知したCIAがニッキーを追い、ボーン共々片付けようとする。



 一方、ボーン抹殺計画を強引に推し進める長官のデューイに反感を覚えていた若手幹部のヘザー・リーは、密かにボーンに対して手持ちの情報を流していた。デューイはボーンの行方を追うかたわら、若くして大成功したIT業界の俊英を取り込もうとしていたが、それは彼の悪しき野望の第一歩であった。

 ボーン出生の秘密は前回で明らかになったはずだが、今回はなぜか彼の父親が昔テロの犠牲になってどうのこうのという、どうでもいい話が大々的にフィーチャーされている。それによって何か新しいストーリーの展開が見られるわけでもなく、前三作における“オマケ”みたいな価値しか無い。しかも、これが何度もリフレインされるものだから、途中で面倒臭くなってくる。

 敵役のデューイの目的というのが“ネットを牛耳って世界を支配する”とかいう、手垢にまみれたものであるのには脱力。その方法論も“ITに長じた大物を買収あるいは脅迫する”という芸の無さだ。CIA内部からボーンをフォローするリーのキャラクター設定も、「ボーン・アルティメイタム」のジョアン・アレン演じる幹部の“二番煎じ”である。

 ポール・グリーングラスの演出は意外なほど精彩が無い。アクションシーンはもちろん、ドラマ運びもキレが悪く、本人が気乗りしていないと思われるほどだ。主演のマット・デイモンは相変わらずだが、容貌には年齢を感じさせるあたり、観ていて辛いものがある。

 デューイ役にトミー・リー・ジョーンズ、主人公を付け狙う殺し屋にヴァンサン・カッセルが扮しているが、この程度の役柄に起用するのはもったいない感じがする。リーを演じるのはアリシア・ヴィキャンデルで、見た目は可愛いが、頭脳明晰な若手エリートとしては物足りない。ロケ地はジェームズ・ボンド映画ばりにワールドワイドながら、作品のカラーとしては何か違う気がする。もうこのシリーズは打ち止めにした方が良い。

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