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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「フライト」

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 (原題:FLIGHT)かなり御都合主義的な展開で、評論家諸氏の意見にあるらしい“骨太な人間ドラマ”とはとても呼べないような内容だが、物語の設定自体には問題提起としての価値はある。その意味では観て損は無いかもしれない。

 主人公のウィトカーは国内線のベテランパイロットだ。ある日、荒天の中をオークランドからアトランタに向かう便の操縦席に座った彼は、離陸直後の乱気流こそ上手く切り抜けたものの、やがて機体の不調により墜落の危機に遭遇する。急角度で高度を下げる航空機を背面飛行させてバランスを取り戻し、地上の開けた場所に胴体着陸を敢行。乗客・乗員102名のうち96名が助かり、彼は一躍ヒーローになる。

 しかし、入院時に検査された彼の血液からアルコールが検出。機体のゴミ入れからは複数のウォッカ瓶も見つかる。さらに薬物使用の疑惑も広がり、一転して犯罪者の烙印を押されそうになる。過失致死罪となれば終身刑は確実だ。周囲のスタッフや弁護士は何とか責任を他に転嫁しようと躍起になるが、次第にウィトカーにとって不都合な真実が暴かれてゆく。

 冒頭、フライトの前夜遅くまでスッチーとウッフンな関係に勤しみ(爆)、酒浸りの身体をコカインで無理矢理に覚醒させて仕事に臨むウィトカーの姿が映し出されるので、主人公は“無罪”ではないことが早々と明かされる。しかも、重度のアル中でジャンキーの彼がそう簡単に“更生”するはずもないことは、観客にとっては丸分かりだ。

 またウィトカーは妻子にも逃げられていて、無理矢理に息子に会いに行くと完全に煙たがられる。どこから見ても彼に“訴訟に勝てるようなキャラクターの設定”が成されていないのだが、困ったことに作者は主役にデンゼル・ワシントンを配することにより、強行突破を図ろうとする。

 いくら贅肉プヨプヨのだらしない男を演じさせようとも“腐ってもデンゼルだ”(?)とのポリシーを掲げ、無理筋のプロットを連発。終盤の主人公の決断の理由も、分かったようで分からない。エピローグに至っては、蛇足以外の何物でもないだろう。

 しかし、いくらどうしようもない人間でも、この事故の被害を最小限に食い止めたのはウィトカー自身なのだ。この、ロクでもない奴が不完全なコンディションのまま非常時に対処し、それなりに成果を挙げてしまった場合、果たして当人はどこまで断罪されるのか・・・・という問いは、けっこう重い。

 何しろ本作の場合、事故の責任は彼自身にはないのだ。こういう事態は、現実世界でも皆無ではないはず。誰が責任を取り、どういうペナルティが相応しいのか。逆に言えば、映画自体を主演俳優のキャラクターに丸投げせず、この設定をとことん詰めていけばこの作品のクォリティは上がったはずだ。

 ロバート・ゼメキスの演出は相変わらずテンポが良く、ジョン・グッドマンやドン・チードル、ケリー・ライリーなどの脇の面子も申し分ないのだが、映画のベクトルを安易な“人間ドラマ”に向かわせてしまったことが、ストーリーの前段設定以外に語るべきものがない出来に留まってしまったと言える。

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