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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「教授のおかしな妄想殺人」

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 (原題:IRRATIONAL MAN)ウディ・アレン作品には珍しいサイコ・サスペンス(と言って良いだろう)。いつもの軽妙な笑劇を期待すると裏切られる。これはひとえに、主演俳優のアクの強さが映画全体を覆い尽くしていて、それが作劇の方向性を決定付けているためだと思う。キャスティングが映画を“型に嵌めて”しまうこともあるのだ。

 ロードアイランド州の小さな大学に赴任してきた哲学教授のエイブ・ルーカスは、人生の意味を見失い、孤独なニヒリズムに陥っていた。ある時、レストランで悪名高い判事の噂を耳にしたエイブは、その判事を完全犯罪によって葬り去ることを夢想する。このドン詰まりの日常から解放されるには、殺人というエキサイティングなイベントは打って付けだと勝手に合点した彼は、その計画を練ることに夢中になり、それによって明るく積極的な人生を取り戻そうとする。以前よりエイブを憎からず思っていた教え子のジルは、彼の(一見すると良い意味での)変化に戸惑いつつも惹かれていく。やがてエイブは計画を実行に移そうとするが、話はそれから二転三転する。

 序盤の言い訳がましいグチばかり垂れ流すエイブは、もちろん作者アレンの分身である。観念的な殺人妄想に取り憑かれて一人で浮かれてしまうのも、このキャラクターならば頷けよう。しかし、何とエイブが殺人を実際に行ってしまうあたりから、通常のアレン映画とは違うテイストを帯びてくる。

 主演のホアキン・フェニックスのギラギラした存在感は、どう考えても事が“未遂”には終わらないことを示している(まさにドフトエフスキーの「罪と罰」のパロディだ)。あとは完全犯罪を成し遂げたと思い込んだエイブと、事件の内容に疑問を持ち始めたジルとの知恵比べに終始。プロットはけっこう良く考え抜かれていて、ちょっとした綻びから完璧だったはずの計画が破綻していく様子が容赦なく描かれる。あちこちに散りばめられた伏線が終盤でちゃんと機能しているのにも感心した。

 ただ、最近のアレン作品らしい脱力系の前半とサスペンス主体の後半とが、カラーが異なって違和感を覚える観客もいることは想像に難くない。しかし個人的には“絶妙のコントラストである”というプラスの評価をしておこう(笑)。

 ジルを演じているのは「マジック・イン・ムーンライト」(2014年)に引き続いてアレン作品に登板するエマ・ストーンだが、演技もさることながらファニーフェイスとハスキーボイスが何とも魅力的だ。アメリカの若手女優の中では屈指の人材だと思う。パーカー・ポージーやジェイミー・ブラックリー等の脇役も良い。またダリウス・コンジのカメラによる明るい画調と、スージー・ベンジンガーの開放的な衣装デザインは、作品が陰惨になることを良い具合に食い止めている。

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