(原題:eXistenZ)99年作品。デイヴィッド・クローネンバーグ監督作としては、ストーリーや映像のキレ具合は「ヴィデオドローム」(83年)や「裸のランチ」(91年)などには及ばない。しかしながら、取り上げられているモチーフには面白いものがあり、観て損は無い映画だと言える。
誰もが脊髄にバイオポートと呼ばれる穴を開け、そこにコントローラーを接続して仮想現実ゲームを楽むようになった近未来が舞台。新作ゲーム“イグジステンズ”の発表会場で、カリスマ的な天才ゲームデザイナーのアレグラが何者かによって銃撃される。犯人はヴァーチャルリアリティーゲームを敵視する“リアリスト”のグループらしい。警備員のテッドは負傷した彼女を連れて現場から逃げるが、彼女は自身の安全よりも襲撃された時に傷ついたゲームの原本の方が心配らしい。それが正常に動くかどうか確かめるために、テッドはアレグラと共にゲームの世界に入る。
そこは実世界と見分けが付かないほどの造型を示すが、敵グループもやっぱり存在し、2人を追い回す。何とかそれらを倒してステージをクリアしていくが、現実に戻っても事態は変わらない。果たして、この事件自体が本当のことなのか、あるいは最初からゲームの中での話だったのか、それを見極められないまま、2人の逃避行は延々と続くのであった。
いかにもクローネンバーグらしいグロいコンテンツが満載だが、ストーリー自体はありきたりで物足らない。公開された時期においても“ゲームの虚構性と現実とのギャップ”なんて、誰でも考えつきそうなネタで珍しくも無い。まあ上映時間は短めだし、初めてクローネンバーグに接する観客にはちょうどいい入門編になるかもしれないが・・・・。
ただし、バイオポートによりデジタルのコンテンツを“そのまま”脳に送り込むというアイデアの映像化には興味を惹かれる。これを応用すれば、ゲームの他にも多種多様な情報をダイレクトに脳に書き込む事が可能になる。音楽鑑賞も同様で、スピーカーを介さずにソースのデータを認識できるだろう(笑)。
ジュード・ロウやジェニファー・ジェイソン・リー、イアン・ホルム、ウィレム・デフォーといった面々がアクの強い演技を披露し、ハワード・ショアはハッタリの効いた楽曲を提供。同年のベルリン国際映画祭にて芸術貢献賞を受賞している。