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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ヴィクトリア」

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 (原題:Victoria)アイデア倒れの映画だ。聞けば2015年のベルリン国際映画祭で最優秀芸術貢献賞を受賞し、ドイツ映画祭でも作品賞をはじめ6冠を獲得したらしいが、とてもそれに値するような質の高さを持ち合わせているとは思えない。特定の技巧だけに着目する一部のマニアックな観客を除けば、まるで“お呼びではない”シャシンである。

 カフェの従業員である若い娘ヴィクトリアは、3か月前にマドリードからベルリンにやって来たばかり。ある晩クラブで踊り疲れて帰宅する途中、地元の若者4人組に声をかけられる。まだドイツ語がうまく喋れずに寂しい思いをしていた彼女は、たちまち彼らと意気投合。ビルの屋上に忍び込んで酒盛りを始める等、ハメを外して楽しい時間を過ごす。



 ところが、その4人は世話になったヤクザ者への借りを返すため、危ない仕事を命じられていた。その中の1人が酔い潰れてしまったため、リーダー格のゾンネはヴィクトリアに仲間に入るように頼み込む。こうして彼女のハードな一夜が始まった。

 この映画の最大の特徴は、上映時間140分をワンカットで撮っている点だ。いくら撮影機器の小型化が実現しているとはいえ、ここまで段取りを整えるのは相当な苦労があったはずで、その努力は認めて良い。しかし、本作にはそのこと以外、評価できる箇所が何一つ無いのだ。

 いくら異国で心細かったとはいえ、どう見てもカタギではない若造どもにホイホイとついていくヒロインの心境は理解不能だ。さらに、犯罪の片棒を担がされることに関して何の疑問も持っていないあたり、呆れるしかない。ならばヴィクトリアが元々道徳観念を持ち合わせていない女なのかというと、それらしい伏線も見当たらない。



 ヤクザのボスが彼らに強要する“仕事”の計画は杜撰極まりなく、案の定ゾンネ達は窮地に追いやられるが、自業自得なので観る側は冷ややかな気分になってくる。ヴィクトリアとゾンネの色恋沙汰も取って付けたようだ。

 つまりは、犯罪ドラマとしてストーリーが全然練られていない。ワンカットで撮って俳優たちに即興芝居をやらせれば、何か表現出来ると思っている。この作者(監督と製作はゼバスティアン・シッパーなる人物)の勘違いぶりは救いようがない。そもそも2時間を超える上映時間は、ワンカットで撮ろうが何をしようが、このネタにおいては長すぎることは論を待たない。1時間半程度でキッチリとまとめるべきだ。

 主演のライア・コスタをはじめ、フレデリック・ラウやフランツ・ロゴフスキといったキャストは馴染みが無いが、同時に魅力も無い。観なくてもいい映画である。

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