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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ロング・ウォーク・ホーム」

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 (原題:THE LONG WALK HOME)94年作品。公民権法が制定される前のアメリカ南部を舞台にしたドラマでは、テイト・テイラー監督の「ヘルプ 心がつなぐストーリー」(2011年)には及ばない。しかし、本作もそれなりのレベルは維持しており、丁寧な演出も相まって、観て損の無い出来に仕上がっている。

 55年のアラバマ州モンゴメリー。白人家庭の主婦ミリアム・トンプソンは、頑固だが人の良い夫ノーマンと2人の娘に囲まれて、何不自由ない生活を送っていた。黒人メイドのオデッサはこの家に9年間勤めており、何かとミリアム達を助けていた。そんなある日、黒人女性が白人にバスの席を譲らなかったことから逮捕されるという事件が発生。これに怒った5万人の黒人が、バスをボイコットする騒ぎに発展する。



 オデッサもトンプソン家までの長い道のりを歩いて通うことを決意するが、見かねたミリアムは夫に内緒で彼女を車で送り迎えする。最初はオデッサのためを思ってそういう行動に出たミリアムだったが、人種差別の実態を知るにつれ、次第に事の重大さを理解していく。やがてオデッサの娘が白人の不良連中にからまれたことをきっかけに、ミリアムは夫の反対を押し切り、黒人達と連帯するようになる。実話を元にした映画化だ。

 絶妙な小道具と重層的なキャラクター配置で完成度の高さを見せつけた「ヘルプ 心がつなぐストーリー」に対し、この映画は平易に対象を描いている。そのあたりが物足りないとも思えるが、リチャード・ピアスの演出は正攻法そのもので、こういうテーマを扱う上でありがちなセンセーショナル性やセンチメンタリズムを過度に前面に出すようなことはない。ケレンに走る一歩手前で踏みとどまり、抑制された作劇を実現させている。

 それがよく表れているのは、黒人への差別意識で盛り上がる“良識的な”白人達のパーティの場面をサッと切り上げて、オデッサとミリアムが現状と将来についてしみじみと語り合う場面に移行するシークエンスのように、何気ない日常の方を重視するやり方だ。メッセージを無理なく伝えることに関して、賢明な方法だと思う。

 ミリアム役のシシー・スペイセク、オデッサに扮するウーピー・ゴールドバーグ、共に好演。南部の風景を美しく捉えたロジャー・ディーキンスのカメラと、ジョージ・フェントンの格調高い音楽も良い。

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