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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「達磨はなぜ東へ行ったのか」

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 (英題:Why Did Bobhi Djarma Go East? )89年韓国作品。静謐な美しさが感じられる映画だ。単に映像がキレイであるというだけではなく、深みがある。監督のペ・ヨンギュンはこれがデビュー作だが、大学で美術を教えているというキャリアからも頷けよう。仏教を題材にしているが、特定の宗教に特化したようなアプローチは成されておらず、普遍的にアピールできるモチーフを採用しているあたりも感心した。

 人里離れた山奥の小さな禅寺に引き取られた孤児のヘジンは、ある日、つがいの鳥の片方を殺してしまう。残されたもう一方はヘジンに復讐しようとして付きまとい、おかげで彼は道に迷い、果ては崖から滑落した落ちたりと、踏んだり蹴ったりの目に遭う。青年僧キボンは母親を見捨てたことへの悔恨から荒行に励むが、激流に流される。キボシを助けようとした老僧ヘゴクも寝込んでしまう。



 主な登場人物は上記の3人だが、頻繁に会話を交わすわけではない。しかしながら、言葉では表現出来ない屈託や葛藤が、圧倒的な自然の風景と空気感、そして音響によって観る者を包み込む。

 幾分抽象的なヘゴクとヘジンの苦悩に比べ、キボンの境遇は身につまされる。目の見えない母の面倒を妹に押しつけ、一度は実家に戻るが、厳しい現実を目の当たりにして逃げ出してしまうのだ。いくら修行を積んだところで、卑近な事実を見せつけられれば途端に下世話な次元に拘泥してしまう。だが、こういう人間の愚かさを一方に見据えた上で、崇高な悟りは存在するのではないかという、作者の透徹した視点が窺われる。

 第42回ロカルノ国際映画祭で5部門を獲得。カンヌ国際映画祭でも上映されている。ペ・ヨンギュンはこれ以降映画を撮ったというニュースは聞かないが、本作を超える作品を容易にモノに出来るとは思えず、それはそれで良かったのかもしれない。

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