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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「キャロル」

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 (原題:Carol )確かに“見た目”のクォリティは高く、世間の評判も良いが、私は大した映画だとは思わない。この映画にはラヴ・ストーリーにおける最重要ポイントが存在せず、それ故に鑑賞後の印象は実に希薄だ。第68回カンヌ国際映画祭では観客受けこそ良かったらしいが、結局は女優賞以外の賞を取れなかった理由はそこにあると思う。

 クリスマス・シーズンを迎えた1952年の冬。ジャーナリストを夢見てマンハッタンにやって来た若い女テレーズは、デパートの玩具売り場でアルバイトをしていた。ある日彼女は、デパートに娘へのプレゼントを探しに来たエレガントでミステリアスな中年女キャロルと、ひょんなことから懇意な間柄になる。

 それ以来2人は頻繁に会うようになるが、いつしかテレーズはキャロルに対して好意以上のものを抱くようになる。キャロルは実は夫と離婚訴訟中であり、それは彼女の“性癖”によるものだった。私生活でのゴタゴタを振り払うように、キャロルはテレーズを車での小旅行に誘う。2人にとって忘れられない旅になったが、唐突な形でそれは終わりを告げる。

 本作の最大の欠点は、恋愛映画につきものの熱いパッションが見当たらないことだ。しかも、50年代という同性愛に対して一般的な理解も無い時代にそれを貫徹しようとするには、激しい恋愛衝動と生々しい情念が必要なはずだが、それがまるで感じられないのは本当に困ったものだ。

 恋人との結婚に及び腰で将来に不安を抱いている若い女と、過去の経緯で離婚を迫られている有閑マダムが、何となく知り合って何となく“その性癖”を相手に見出し、何となく懇ろになったという、まるで煮え切らない筋書きが提示されるのみだ。

 前にも書いたが、女性同士の恋愛を描いた映画の最高傑作は、個人的には矢崎仁司監督の「風たちの午後」(80年)だと思っている。あの作品に横溢していた鮮烈な情念には圧倒されたものだが、この「キャロル」はその足元にも及ばない。主人公達の退屈なやり取りの果てに、どうでもいいようなラストが待ち受けている。

 キャロルに扮したケイト・ブランシェットは相変わらずの熱演だが、やればやるほど身勝手でギスギスしたヒロイン像が強調され、とても魅力的だとは思えない。テレーズ役のルーニー・マーラは凄く可愛い(こんなに可愛い女優だとは思っていなかった)。だが、どこか“可愛いだけ”みたいな雰囲気が漂って映画的な魅力に昇華しない。

 ジュディ・ベッカーによる美術、エド・ラックマンの撮影、カーター・バーウェルの音楽および既成曲、いずれも満点。そしてサンディ・パウエルが担当した衣装デザインは、素晴らしいの一言だ。しかしながら、トッド・ヘインズ監督がやはり50年代を扱った「エデンより彼方に」(2002年)と同じく“外観のみOK”という結果になったのには、脱力せざるを得ない。

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