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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ゼロ・ダーク・サーティ」

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 (原題:ZERO DIRK THIRTY)前に観た「アルゴ」と似た傾向の映画である。つまりは“CIAバンザイ!”といったスタンスが貫かれている。しかしここには「アルゴ」で取り上げられたような、映画好きが喜ぶような仕掛けは無い。ニセのSF大作をデッチ上げて周囲を煙に巻くような“愛嬌”はどこにも見当たらず、最初から最後まで無愛想で味気ない作劇が延々と続くのみ。これではとても評価できない。

 9.11事件以降ビンラディンの消息をつかめないCIAは、ノン・キャリアながら情報収集能力に秀でた女性エージェントのマヤを対策チームの一員に加える。身柄を確保したテロリスト関係者から証言を聞き出し、相手側のキーマンに接触しようとするが、逆に自爆テロを仕掛けられて彼女の親しい同僚も犠牲になってしまう。さらにはロンドンでもテロが起き、CIAの立場は危うくなるばかり。そんな後ろ向きの雰囲気が充満する中、マヤはビンラディンを追い詰めるべく、ますます執念を燃やす。

 2011年5月2日のビンラディン殺害事件を扱ったシャシンであるから、結末は誰でも分かる。だから映画的興趣をどの部分で盛り上げていくかが焦点になるはずだが、これがどうにも感心しない。

 冒頭からCIA局員による容疑者の拷問シーンが展開するが、これがまあ“笑っちゃうような”生ぬるさだ。こんな体たらくでテロリストが簡単に“落ちる”わけがないだろう。取材協力先からクレームが付いたという事情があるようにも聞くが、その程度で描写の切っ先が鈍ってしまうのならば初めから撮るなと言いたい。

 ヒロインは職務にのめり込んでいるという設定ながら、どうも通り一遍の仕事ぶりのように見える。狂気にも似た切迫感があるはずなのに、ギラリとした凄みはどこにもない。だいたい、主人公がどういう経歴でいかなる心理的背景を持っているのか、そういうプロフィールがほとんど取り上げられていないため、彼女が単なる“仕事熱心な女”としか扱われていないのは不満だ。同僚の敵討ちという名目も取って付けたようである。

 あの殺害事件では、米軍が勝手にヨソの国に押し入って“仕事”をやらかしたことに対する疑問も生じたはずだが、それに対する問題意識は呆れるほど完全に捨象されている。クライマックスの突入シーンを観ていると、どちらがテロリストなのか分からなくなるほどだ(笑)。

 もちろん“相手側を一方的に悪者にするのはケシカラン”などというリベラルなセリフを吐くつもりはないが、パキスタンの事情等に関して言及しないようでは、ドラマに厚みを加えることはできず、映画として面白くならない。せいぜいが、事が終わった後の、ヒロインの虚脱感を挿入させてお茶を濁す程度では、まるで物足りないのだ。

 キャスリン・ビグローの演出は前作「ハート・ロッカー」に比べるとかなり平板で、観ている間には眠気を生じる。主演のジェシカ・チャステインをはじめ、ジェイソン・クラーク、ジョエル・エドガートンといったキャストに対してもコメントする価値なし。

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