(原題:Life of Pi)遊園地のアトラクションみたいな映画である。断っておくが、私は本作を3Dで観ていない。何しろ偏光メガネを掛けていると頭痛を覚えるのだ(爆)。せいぜい30分程度しか保たず、2時間以上もこの状態を続けるのは辛い。だから通常の2Dでの鑑賞になった次第だが、この映画が3Dで見せることを前提に作られたことを勘案しても、あまり積極的に評価したい作品ではない。
1977年、インドからカナダへと向かう貨物船が太平洋上で嵐に巻き込まれて沈没。救命ボートに乗って助かったのは、動物たちと一緒にカナダに移住する予定だったインドの動物園長の16歳になる息子パイ・パテルのみ。ところが、ボートには体重200キロを超すベンガルトラのリチャード・パーカーも“乗船”していたのだ。こうして、緊張感に満ちたパイの漂流生活が始まる。カナダ人作家のヤン・マーテルによる世界的ベストセラー小説「パイの物語」の映画化だ。
普通に考えれば、食料に乏しいボートに凶暴なトラと乗り合わせるというシチュエーションだと、こりゃもう“結果”は決まっている(笑)。だからパイがこのピンチをどう切り抜けるかがドラマの主眼になるはず・・・・だと思うのだが、この映画はそのあたりをハナから捨象している。
飢えを覚えれば勝手にトビウオの群れが飛び込んでくるし、絶望的な状況になるかと思うと食料が満載のナゾの島にたどり着いたりと、多分に御都合主義的なのだ。しかも、トラの造型は良く出来ているとはいえ、しょせんはCGである。トラだけではなく、魚や他の動物もすべてCG。別にCGだからダメだということでもないが、緊迫感を要求される設定の中にあって、いかにもCG然としたワザとらしい動きのクリーチャーのオンパレードでは、実体感は限りなく乏しい。
この物語自体が大人になったパイの口から語られるものであり、ラストにはその非現実感を説明するかのような“オチ”もあるのだが、その“オチ”を考慮してもこの奇想天外な話の存在理由がいまひとつピンと来ない。冒頭述べたような“3Dによるアトラクション”としての価値しか見出せないのだ。
では、どうしてこの映画がアカデミー賞はじめ各アワードのノミネーションを賑わせたのか。それはたぶん、主人公パイの宗教観にあるんじゃないかと思う。パイはヒンドゥー教をはじめ、キリスト教やイスラム教も信じている。また仏教やユダヤ教にも興味を持っている。自らの人生に何らかの“救い”をもたらすと感じるものは、どんな宗教のどんな神でも信じてしまう。
キリスト教やイスラム教などの一神教が、長い間人々を救うどころか戦争の口実になっていることに対するアンチテーゼとして受け取られたのかもしれない。逆に言えば、そういう解釈でもしない限り、高評価の背景は説明できないと思う。
アン・リーの演出は、今回は可も無く不可も無し。出演者は全て馴染みが無いが、あえて有名な俳優を使わなかったというアン監督のセリフとは裏腹に、印象に残るキャストもいない。個人的には凡作としか思えない映画であった。