ONKYOが昨年(2014年)に発売したスピーカー、D-77NEは家電量販店にも置いてある商品だが、試聴環境がいくらか良好なフェア会場で改めて対峙したいと思い、じっくりと聴いてみた。どうしてこの製品に興味を持ったのかというと、D-77NEは80年代に一世を風靡した“598スピーカー”の生き残りであるからだ。
その昔、国内メーカーはこぞって30センチウーファーを搭載した大型ブックシェルフのスピーカーをリリースしていた。どれも判で押したような定格で、同じようなサイズ。そして25kg以上の重量がある製品を、一本59,800円(およびそれに類する価格)で売っていたのだ。それらはバブル崩壊とオーディオ人口の減少に伴ってほとんど消えていったが、唯一ONKYOだけはそのスタイルのモデルを作り続けていた。
とはいえ私は80年代においても“598スピーカー”を評価しておらず(短期間保有していたが、すぐに処分した)、この後継機種であるD-77NEにも期待はしていなかった。だが、オーディオを取り巻く環境が変わった現在、昔ながらの外観・構成でONKYOがどのような提案をしてくるのか確かめたいという気持ちがあった。なお、駆動していたアンプ類も同社製品である。
実際聴いてみると、やはり大口径のウーファーの威力は凄いと思った。低域は量感があり、しかも音像の立ち上がりと立ち下がりが速く、音場を広く確保出来る。現在主流のトールボーイ型スピーカーとは全く異なる展開を見せることは確かだ。しかしながら、中高域は味気ない。ボソボソとして素っ気なく、レンジが広がらない印象を受ける。この点は他社の製品(特に欧米ブランド品)に大きく水をあけられる。要するにこれは、豊かな低音と復古調のデザインを求めるユーザーのみを対象とした製品だ。
スタッフに売れ行きを聞いてみると、懐かしさで興味を持ってくれるリスナーは少なくないが、実際の出荷数はそれほどでもないという。理由は価格にあるらしい。この製品は一本175,000円であり、実に“598スピーカー”の3倍近い値付けだ。かつての“598スピーカー”のセールスポイントが“物量投入されている割には値段が高くない”というものであったことを考え合わせると、D-77NEに市場価値がそれほどあるとは思えない。これからも同社がこの形態のスピーカーを発売し続けていくのかどうか、疑問の残るところである。
なお、別のブースでD-77NEと同価格帯の製品であるフィンランドAMPHION社のArgon3を試聴した。筐体が大きくないので低域のスケール感などは望めないが、明るく伸びやかな展開で聴いていて楽しい。同じ予算ならば、こっちの方を選ぶユーザーも多いだろう。
DENONの高級プリメインアンプPMA-SX1(定価580,000円)もフェア会場で聴きたかったモデルだ。しかも繋げていたスピーカーは英国B&W社の802Dという(リファレンスにも成り得る)上位機器なので、このアンプの素性をチェックするには最適な環境である。だが、出てきた音は個人的にはとても評価できないものであった。
フットワークの重いサウンドで、音楽が響かないのである。音像は分厚く全域に渡って馬力はあるが、伸びやかさに欠け透明度もイマイチだ。よく聴けば解像度や情報量は十分に確保されていて、その面では値段相応のクォリティは達成されているとは言えるが、聴いて面白い音かと聞かれると、色好い返事は出来ない。とにかく、今までショップやフェア会場で何度も接した802Dから、あまり楽しくない音が出ているのを聴くのは初めてだ。
この音を聴いて思い出したのは、昔のSANSUIのプリメインアンプだ。もちろん両者は音色は違うが、方法論には共通するものを感じる。とはいえ当時はSANSUIの音を好むリスナーは少なくなかったので、今のこのPMA-SX1も市場に受け入れられる余地はあると思われる。しかしながら、私は好きではない。同じ金額を出すならばROTELのセパレートアンプか、あるいは少し予算を積み上げてACCUPHASEやSPECのプリメイン型を選びたい(まあ、いずれにしても買えないのだが ^^;)。
(この項つづく)
その昔、国内メーカーはこぞって30センチウーファーを搭載した大型ブックシェルフのスピーカーをリリースしていた。どれも判で押したような定格で、同じようなサイズ。そして25kg以上の重量がある製品を、一本59,800円(およびそれに類する価格)で売っていたのだ。それらはバブル崩壊とオーディオ人口の減少に伴ってほとんど消えていったが、唯一ONKYOだけはそのスタイルのモデルを作り続けていた。
とはいえ私は80年代においても“598スピーカー”を評価しておらず(短期間保有していたが、すぐに処分した)、この後継機種であるD-77NEにも期待はしていなかった。だが、オーディオを取り巻く環境が変わった現在、昔ながらの外観・構成でONKYOがどのような提案をしてくるのか確かめたいという気持ちがあった。なお、駆動していたアンプ類も同社製品である。
実際聴いてみると、やはり大口径のウーファーの威力は凄いと思った。低域は量感があり、しかも音像の立ち上がりと立ち下がりが速く、音場を広く確保出来る。現在主流のトールボーイ型スピーカーとは全く異なる展開を見せることは確かだ。しかしながら、中高域は味気ない。ボソボソとして素っ気なく、レンジが広がらない印象を受ける。この点は他社の製品(特に欧米ブランド品)に大きく水をあけられる。要するにこれは、豊かな低音と復古調のデザインを求めるユーザーのみを対象とした製品だ。
スタッフに売れ行きを聞いてみると、懐かしさで興味を持ってくれるリスナーは少なくないが、実際の出荷数はそれほどでもないという。理由は価格にあるらしい。この製品は一本175,000円であり、実に“598スピーカー”の3倍近い値付けだ。かつての“598スピーカー”のセールスポイントが“物量投入されている割には値段が高くない”というものであったことを考え合わせると、D-77NEに市場価値がそれほどあるとは思えない。これからも同社がこの形態のスピーカーを発売し続けていくのかどうか、疑問の残るところである。
なお、別のブースでD-77NEと同価格帯の製品であるフィンランドAMPHION社のArgon3を試聴した。筐体が大きくないので低域のスケール感などは望めないが、明るく伸びやかな展開で聴いていて楽しい。同じ予算ならば、こっちの方を選ぶユーザーも多いだろう。
DENONの高級プリメインアンプPMA-SX1(定価580,000円)もフェア会場で聴きたかったモデルだ。しかも繋げていたスピーカーは英国B&W社の802Dという(リファレンスにも成り得る)上位機器なので、このアンプの素性をチェックするには最適な環境である。だが、出てきた音は個人的にはとても評価できないものであった。
フットワークの重いサウンドで、音楽が響かないのである。音像は分厚く全域に渡って馬力はあるが、伸びやかさに欠け透明度もイマイチだ。よく聴けば解像度や情報量は十分に確保されていて、その面では値段相応のクォリティは達成されているとは言えるが、聴いて面白い音かと聞かれると、色好い返事は出来ない。とにかく、今までショップやフェア会場で何度も接した802Dから、あまり楽しくない音が出ているのを聴くのは初めてだ。
この音を聴いて思い出したのは、昔のSANSUIのプリメインアンプだ。もちろん両者は音色は違うが、方法論には共通するものを感じる。とはいえ当時はSANSUIの音を好むリスナーは少なくなかったので、今のこのPMA-SX1も市場に受け入れられる余地はあると思われる。しかしながら、私は好きではない。同じ金額を出すならばROTELのセパレートアンプか、あるいは少し予算を積み上げてACCUPHASEやSPECのプリメイン型を選びたい(まあ、いずれにしても買えないのだが ^^;)。
(この項つづく)