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「第12回九州ハイエンドオーディオフェア」リポート(その1)

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 去る3月27日から29日にかけて、福岡市博多区石城にある福岡国際会議場で今年も開催された「九州ハイエンドオーディオフェア」に行ってきたのでリポートしたい。まず印象付けられるのが、アナログプレーヤー(およびその関連機器)の展示が目立っていたことだ。

 もちろん、これまでも毎回アナログ関連の出品は行われていたが、今回は各ブースにレコードプレーヤーが複数台置かれており、スピーカーやアンプのデモにもアナログ音源が使われることも多かった。これは昨今の“アナログ復権”のトレンドを意識したものだ。最近ではレコードプレーヤーを置いているCDショップがけっこうあり、渋谷ではHMVのレコード専門店もオープンした。この動きに業界が反応したのは当然だろう。



 アナログレコード及びそのプレーヤーは、CDやPC音源と比べると“趣味性”は格段に高い。ブラックボックスばかりで素人には全容が掴めないデジタル音源に対し、針が盤面をトレースする様子が実際に確認出来て、それに調整を加えることによって、面白いほど音が変わっていく展開を実感出来るアナログ音源は“これぞオーディオ”という醍醐味を醸し出す。

 各展示商品の中で特に目を引いたのは、DS Audioからリリースされた光カートリッジだ。DS AudioはDigital Stream社が立ち上げたオーディオブランドである。同社は88年創立の国産光学技術専門メーカーであり、当初は光ディスクの業務チェック用のピックアップの製造を手掛けていた。また良く知られたところでは、Microsoft社との共同開発による光学式マウスが挙げられる。

 デジタル方面のデバイスを提供しているメーカーがアナログに進出するというのは意外だが、その製品もユニークなものだ。前にも書いたが、カートリッジとはレコード針及びレコードの音溝の振幅を電気信号に変換するための発電装置等を含めた機器の総称である。通常、カートリッジは磁石あるいはコイルを用いて針の動きを検出するのだが、この光カートリッジは針の動きに光を照射し、信号を光の変化量として捉え出力する。



 この光カートリッジは理論としては昔からあり、実際に70年代前半には東芝やTRIO(現KENWOOD)等が製品化したという。しかし、当時の技術では製造工程や品質安定性に関するハードルが高すぎたために、早々に撤退してしまったらしい。今回それが可能になったのは、LEDの採用によるところが大きい。単純に考えて、磁石あるいはコイルを使用しないということは、磁気がもたらす数々の“影響”をクリア出来ることを意味する。その“影響”には良くないものも含まれていることは想像に難くなく、その意味では画期的な製品かもしれない。

 提供しているモデルは2機種で、上位製品は30万円を超える。しかも、専用のイコライザーを併用しなければならず、マニアでも二の足を踏んでしまうような価格設定だ。出てくる音はスムーズで良いとは思うが、同価格帯の他社製品と聴き比べたわけではないので、商品自体の競争力に関しては未知数である。それでもこのDS Audioに期待したいと思ったのは、開発スタッフが若いからだ。

 まだ20代の開発主任は、数年前に初めてアナログレコードの音に接し、その密度の濃いサウンドに驚愕したという。それが切っ掛けとなって今回の製品化に向けて全力を注ぐようになったらしいが、当然のことながら懐古趣味のオールドファンなんか相手にしていない。レコードを新しいメディアとして幅広い層にアピールさせるために今後も業務に邁進するとのことで、頼もしいと思ったものだ。これからも注視したいブランドである。

(この項つづく)

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