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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「聖なるイチジクの種」

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 (英題:THE SEED OF THE SACRED FIG)イランを舞台にしたサスペンス編。かなりシビアな題材を扱っており、ドラマ運びもヘヴィなタッチなのだが、如何せん脚本の完成度が低い。加えて167分という、かなりの長尺。エンドマークを迎えるまでは、けっこう忍耐力を要した。2024年の第77回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を獲得するなど高い評価は得ているのだが、個人的には受け付けない内容だ。

 テヘランの司法機関に勤務するイマンは、20年にわたる真面目な勤務態度が評価されて予審判事に昇進する。ところが与えられた仕事は、反政府デモの逮捕者を冤罪で処罰するための御膳立てである。さらに、報復の危険があるため家族を守る護身用の拳銃が国から支給される。ある日、自宅で厳重に保管したはずの銃が消えてしまう。当初はイマン自身の過失かと思われたが、やがて妻ナジメや長女レズワン、次女サナの3人のうち誰かが隠したのではないかという疑惑が生じる。不穏な空気が流れる中、事態は思わぬ方向へと狂いはじめる。



 シナリオも担当したモハマド・ラスロフの仕事ぶりは褒められたものではなく、各キャラクターの性格付けがハッキリとしないまま、やたら深刻な筋書きばかりが語られる。そもそも、拳銃が紛失する必然性が曖昧だし、終盤で明かされる“犯人”の設定もまるで説得力が無い。映画は不穏分子を手当たり次第に検挙する当局側の不正義をまず告発しなけれけばならないはずが、主人公一家のゴタゴタばかりが長時間前面にて出て来てしまい、観ている側は途中で面倒くさくなってくる。

 後半のイマンの言動に至っては完全なホラー映画のノリで、いったい何を見せられているのかと呆れるばかりだ。それでも、監督は本作により母国イランで政府を批判したとして複数の有罪判決を受け、判決確定後にドイツへの亡命を果たしている。この程度で生きるか死ぬかの選択を迫られることになるとは、彼の国の情勢はひと頃より良くない雰囲気になっているのだろうか。そのあたりが垣間見えたのが、この映画に接したことの唯一のメリットだと思う。イマンに扮するミシャク・ザラをはじめ、ソヘイラ・ゴレスターニにマフサ・ロスタミ、セターレ・マレキ、ニウシャ・アフシとキャストは皆好演。それだけに中身の薄さが残念だ。

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