2022年作品。観ている最中に、監督で脚本も担当した内田英治はあの愚作「ミッドナイトスワン」(2020年)を手掛けていたことを思い出し、イヤな気分になった。そのことを象徴するように、本作のヴォルテージも低い。設定は実に面白そうなのに、どこをどうすれば斯様なつまらないシャシンに終わってしまうのか、ある意味感心してしまう(呆)。
愛知県の地方都市で捜査一課に属する成瀬司は、犯人逮捕のためなら手段を選ばないベテラン刑事だ。高齢者を狙った強盗事件が多発する中、令状も取らず強引な捜査を繰り返した挙げ句、上司の反感を買って広報課内の音楽隊への異動を命じられてしまう。嫌々ながら音楽隊を訪れる成瀬だったが、そこに属していたメンバーの大半はやる気が無く、前向きなのはトランペット奏者の来島春子ぐらい。成瀬のストレスは大きくなる一方だ。
まず、警察音楽隊の存在を軽んじていることが不愉快だ。各県警の音楽隊の演奏には何回か接したことがあるが、いずれも達者なパフォーマンスで観客のウケも良かった。間違っても本作で描かれたような問題刑事の左遷先や、多忙な職員が上層部から無理矢理にやらされる“余興”などという雰囲気は無い。さらに、この映画は音楽の扱いが本当に雑である。いずれの演奏も高揚感が希薄で、しかもブツ切りでじっくり聴かせてくれない。ラストのナンバーこそ長めにプレイされるが、別に上手いとも思わない。
主人公の造型も褒められたものではない。令状無しでの猪突猛進など、コメディにもならない御膳立てだ。異動後も未練がましく元の職場に顔を出すと思えば、終盤には大した証拠も提示せずに“こいつがホシだ!”と断定にするに及び、作者は音楽だけでなく警察そのものも軽視している様子が窺われる。
主演は阿部寛が務め、他に清野菜名や磯村勇斗、高杉真宙、板橋駿谷、モトーラ世理奈、渋川清彦、六平直政、光石研、さらに超ベテランの長内美那子や倍賞美津子など、演技が下手な面子は誰一人いないにもかかわらず、印象的な仕事をさせていない。なお、阿部寛はドラムスを担当しているが、最後までサマにならない。他の音楽隊の面々も、楽しそうに演奏しているようには見えないのだ。
唯一の例外が、主人公の高校生の娘に扮する見上愛だ。音楽隊の一員ではないのだが、ギターを気持ちよさそうに弾きまくる。彼女は本当にギターが得意であるらしく、いっそのこと見上を主役に学園音楽ドラマでも作った方がナンボかマシだっただろう。