1953年作品。大映の第一回カラー映画で、第7回カンヌ国際映画祭では大賞を獲得している。今回私は福岡市総合図書館にある映像ホール“シネラ”での特集上映にて、初めてスクリーンで観ることが出来た。映像の喚起力はかなりのもので、この時代にこれだけのものを撮り上げたスタッフの力量には感嘆するしかない。ただし、内容は現時点で接してもアピールできるかどうかは意見の分かれるところだろう。
平安時代末期に勃発した平治の乱において、焼討をうけた御所から上皇と御妹上西門院を救うため、警備役の平康忠は身替りを立てて敵を欺こうとする。上西門院の身替りになった袈裟の牛車を守るのは、豪腕として知られた遠藤盛遠だった。彼は大挙して襲ってくる二条親政派の者たちを撃退して彼女を彼の兄盛忠の家に届けたが、あろうことか袈裟に一目惚れしてしまう。しかし彼女は御所の侍である渡辺渡の妻だった。それでも諦めきれない盛遠は、しつこく袈裟を付け回す。菊池小説「袈裟の良人」の映画化だ。
盛遠の言動は、たちの悪いストーカーそのものだ。普通ならば、旦那の渡か盛遠の“上司”である平清盛に申告して、盛遠を処断してもらうのが常道だろう。ところが袈裟は、事を荒立てるのを潔しとせず、自身でケリを付けようとする。これを“袈裟の貞淑さが泣かせる”とばかりに認めれば本作は評価出来るだろうし、製作当時はそれが通用していたのだろう。だが、今観るとやっぱり違和感を覚える。さらに、ラストの処理も綺麗事に過ぎると思う。
とはいえ、和田三造による衣装デザインをはじめとする美術は素晴らしく、これを見届けるだけでも鑑賞する価値がある。また、名匠として知られた衣笠貞之助の演出は骨太で、一時たりともドラマが停滞しない。アクションシーンは圧倒的で、後年「眠狂四郎シリーズ」を手掛ける三隅研次が助監督として参画しているのも大きいだろう。杉山公平のカメラによる流麗な映像も言うことなし。
主役の長谷川一夫は悪役を楽しそうに演じ、山形勲に黒川弥太郎、田崎潤、千田是也、石黒達也、植村謙二郎、殿山泰司などの顔ぶれも確かなものだ。そして袈裟に扮する京マチ子の魅力はただ事ではない。盛遠ならずとも、ゾッコンになってしまうだろう(笑)。
名物プロデューサーだった永田雅一のワンマン体制で作られたシャシンらしいが、こういう独走ぷりを見せる製作者は毀誉褒貶はあるにせよ、映画界を活性化させるものなのだろう。ひるがえって現在はそんな人材が見当たらないのは、ある意味残念だと思う。