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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「稲妻」

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 1952年大映作品。往年の名監督、成瀬巳喜男の代表作と呼ばれている映画だが、今回私は福岡市総合図書館にある映像ホール“シネラ”での特集上映にて、初めてスクリーンで観ることが出来た。登場人物たちの設定は随分と無理筋だとは思うものの、この時代ならあり得そうだし、タイトルの“稲妻”が鳴り響くタイミングも秀逸。異色のホームドラマとして記憶に残る作品だ。

 はとバスのガイドをしている小森清子には光子と縫子という二人の姉、そして兄の嘉助がいるが、実はそれぞれ父親が違う。姉たちは結婚しており、清子は独身。嘉助は甲斐性無しのプータローだ。縫子が清子に両国のパン屋の綱吉との縁談を持って来るが、それは遣り手の綱吉の財力をアテにした政略結婚みたいなもので、清子は話に乗る気はまったく無い。さらに光子の夫の呂平が急死し、その後に呂平には妾のリツと子供が残されていたことが分かる。いよいよ嫌気がさした清子は、家を出る決心をする。林芙美子の同名小説の映画化だ。



 昭和初期には(戦役などで)相方に次々と先立たれて再婚を重ねた結果、父親の違う子供を複数持つことになった女性がけっこういたことは想像に難くない。だからこの映画の御膳立ても違和感は少ないと言える。それよりも、複雑な家庭の事情にもめげずに自分たちで人生を切り開こうとした姉妹たちのバイタリティを賞賛すべきであろう。

 そんな状況にあって“自分だけは違う!”とばかりに独り暮らしを始めた清子は、隣家に住む垢抜けた兄妹に憧れるものの、波瀾万丈の人生を送った母親の影響から逃れることが出来ず、改めて自身の生き方を問い直す。その筋書きには無理はなく観る者の共感を呼ぶ。成瀬の演出は達者なもので、登場人物たちの微妙な屈託を巧みに掬い上げる。

 清子役の高峰秀子の魅力は圧倒的で、彼女一人でこの混迷した世の中を引き受けてしまうようなスケールの大きさを感じさせる。母親役の浦辺粂子の存在感も特筆もの。他にも三浦光子に村田知栄子、丸山修、小沢栄太郎、根上淳、香川京子などの手練れが顔を揃える。峰重義のカメラがとらえた高度成長時代前夜の東京の風景は、ゴミゴミとしていながらノスタルジアに溢れていて、(私が生まれるずっと前の話ながら)観るほどに心にしみてくる。

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