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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「カラフルな魔女 角野栄子の物語が生まれる暮らし」

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 「魔女の宅急便」で知られる児童文学作家の角野栄子(1935年生まれ)の日常に、4年間にわたって密着したドキュメンタリー。興味深い部分はあるし、終盤の展開は感動的なのだが、物足りなさも残る。元ネタは2020年から2022年にかけてEテレにて全10回で放送された同名番組であり、それに追加撮影と再編集を施して映画版として完成させたものだが、やはり最初から一本の劇場用映画として製作されたものとは勝手が違うようだ。

 まず目を奪うのは、角野が住む鎌倉の自宅の造型だ。すべてが“いちご色”の意匠に囲まれ、まるで御伽の国の世界である。彼女自身の外見もブッ飛んでいて、徹底的にカラフル、そしてマンガチックなメガネをトレートレマークにしている。なるほど、表現者というのは程度の差こそあれ常人の美意識を超越しているものだと感じ入ったのだが、彼女は若い頃はそのような身なりはしていない。普通の(カタギの ^^;)女性にしか見えないのだ。ならばどうして今のような境地に至ったのか、映画ではそれについて言及していない。



 また、彼女は1958年ごろにインテリアデザイナーの男性と結婚しているが、夫とは共にブラジルに2年間滞在したことが述べられているだけで、彼が角野の仕事にどう影響を及ぼしたのか、そして旦那はどうなったのかも描かれていない。大事なことが押さえられていないまま映画は中盤過ぎまで進むので、観ている側としては退屈だった。

 しかしながら、ブラジルで世話になった少年が角野に会いに来るラスト近くのエピソードは良かった。あれから長い時間が経ち、かつての少年も年老いてしまったが、それでも2人の絆は失われていない。さらに、共に訪れる江戸川区の角野栄子児童文学館の造型の素晴らしさには唸ってしまった。隈研吾が設計を担当したとのことだが、国立競技場よりも良い仕事なんじゃないかと、勝手なことを思ってしまう(苦笑)。一度は足を運んでみたいものだ。

 監督の宮川麻里奈はテレビ版でのディレクターでもあるが、まあ無難にこなしたというレベルだ。藤倉大の音楽は万全で、以前手掛けた「蜜蜂と遠雷」(2019年)よりも良い。ナレーションは宮崎あおいが担当。キュートな声が角野の作品世界とマッチしていた。

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